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昼休み1 《江》

「あっ」 職員室の前。 会いたかった彼と目があった。 「樺島」 「松谷さん!」 自然と顔がほころぶ。 松谷さんも笑っていた。 「ここで会うと思わなかった」 「俺も。嬉しいな~」 「だな。なにか用事?」 「えっとー……課題出すの忘れてて」 「樺島は勉強出来るのに、不真面目だよな」 「松谷さんが真面目すぎなんだよっ。今日も質問しにきたの?」 「ああ。ちょっと、行ってくる」 「うんっ、待ってるね」 ぽんと頭を撫でられて、どきっとしてしまう。 松谷さんの大きな手に触れられるのが好き。 ほんとは毎日でも会いたい。 少しだけでも話したい。 でも、我慢。 松谷さんは今が大事なときだ。 受験とか勉強の邪魔はしたくない。 頭ではわかってても、寂しいものは寂しいんだけどね。 窓の外を眺めて待つ。 薄く雪を被った中庭の木が日の光を反射して、きれいだった。 こうして待つ時間も、幸せだって思えてしまう。 「お待たせ」 暫くして松谷さんが戻ってきた。 「お疲れ様。頑張ってるねぇ」 松谷さんは、俺と違って真面目で努力家。 そういうとこ尊敬してる。 「うん」 松谷さんは頷くとじっと俺を見つめてくる。 眉を下げて、元気がない感じ。 「ほんとは……少し、しんどいかも」 ぼそっと吐いた弱音に胸がきゅんとしてしまう。 だって、松谷さんは大人っぽくてあんまりそういうこと口に出さないから。 ダメなんだ。 そういう弱いとこ見せられるの。 嬉しくなる。 どうにかしてあげないなーって、思う。 俺が元気にしたいなって。 「あっ、時間ある?」 「? あるけど」 「こっち、きて!」 袖口を掴んで歩き出す。 「どこ行くんだ?」 「ひみつ!」 もう少しだけ一緒にいたいわがままも、松谷さんを元気づけるためなら平気だよね?

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