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昼休み3 《江》
松谷さんは俺の髪の毛を撫でながら言う。
「樺島は俺の前だけじゃなくかわいいもんな」
「えー? そんなことないでしょ」
「そんなことある」
癖っ毛で遊んでいた指先が眼鏡に触れ、外されていく。
はっきりとしていた視界がぼやけて松谷さんの顔も見えにくくなってしまった。
「どしたの、いきなり」
顔にかかっていた前髪も掻き分けられて、じっと見つめられた。
くっきりと表情を見れないのもあってもどかしい。
あんまり真っ直ぐ見られているから顔が熱くなってきた。
「ダメだ……」
「え?」
ぼそりと呟く松谷さんに反射的に聞き返す。
「なんか、照れる」
照れるって俺の顔を見て?
「自分でやったのに照れないでよ……」
ツッコみつつ松谷さんのが伝染してこっちまで照れてしまう。
天然っていうかなんていうか。
そうしてるとまた眼鏡を掛けなおしてくれた。
眼鏡のレンズ越しの松谷さんは確かに少し照れていた。
「まだなれない」
「眼鏡外した顔?」
「うん。可愛い上にイケメンだ」
「イケメンは無いでしょ」
大げさだなって思う。
全然男らしくない顔だもん。
「イケメンじゃなかったらなんだ、美男子?」
「そんな真面目な顔で言わないでよ」
「ハンサム」
「笑顔で言うのもなし!」
そんなこんな話していると、とうとう予鈴がなってしまった。
途端に寂しさが募ってくる。
目があって、松谷さんに強く抱きしめられた。
俺も寂しさを誤魔化すように腕を回して抱きしめ返す。
「教室、戻らないとな」
松谷さんの声。
低くて、触れ合った肌から振動が伝わってくる。
ずっとこうしていられたらいいのに。
口には出さないけど。
行かないでって制服をぎゅっと握ってみる。
「樺島のおかげで午後も頑張れそうだ」
松谷さんの言葉に手から力が抜けていく。
「……うん。寂しくなったら、連絡してよね」
少しでも元気になってくれたんなら、それでいいや。
「樺島も、な?」
耳に響いた優しい声に、寂しさで締め付けられてた胸が緩んでく気がした。
腕の中で頷くとまた頭を撫でられた。
あーあ、すぐにでも連絡しちゃいそう。
離れるのが惜しくて、教室に戻ったのは授業の始まるぎりぎりだった。
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