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昼休み4 《早苗》
昼休み。
柳くん……剣介と一緒にご飯を食べる。
いつもと同じこともふとした瞬間、いつもと違うみたいになってしまう。
「唐揚げ一個あげる」
お弁当の中に二つ並んでたそれをひとつ、箸で持ち上げて剣介に差し出す。
そこまではいいのに、剣介の開いた唇を見て、急に恥ずかしくなってしまった。
あーんってしてるって自覚しても、もう手を引くにも引けない。
箸に触れそうで触れない位置で剣介は唐揚げを咥えた。
触れても良かったのに、な。
まじまじと見てしまうと恥ずかしくて顔が火照ってきた。
なんともないふりをして笑顔を作ってみるけど、剣介に笑われて一層照れた。
「ほら、プチトマト」
指で摘んで目の前に持ってくる剣介。
目を細めて楽しそうにしていた。
意地悪だ。
ドキドキして、しょうがないのにこんなの。
嫌じゃないけど恥ずかしい。
恥ずかしいけど拒めない。
差し出されたそれを口に含む。
へたを摘んだ剣介の指先に唇が触れてしまった。
トマトに軽く歯を立てると引っ張ってへたが取れる。
食べさせられてる事も唇に残ってる感触も恥ずかしい。
全然味わう余裕もない。
「うまいか?」
にやけて聞いてくる剣介。
味なんて意識してられなくて、取り敢えず頷いてみる。
意識しなきゃ平気なのに。
剣介は得意気に笑ってて、僕ばっかり気にしてるみたいだ。
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