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昼休み6 《早苗》

のんびり話していると桜井くんがやってきた。 「ねぇねぇ、かっしー数学教えて」 「いいよ。どこの問題?」 「こことここ。どっちか当たりそうなんだよねぇ」 次の時間は数学。 当ててくる先生だもんね。 「二人で仲良くしてるとこ悪いなぁ、柳」 「にやにやすんな」 「ふふ、剣介も解いておいたら?」 「ん? 待って今」 びっくりしたみたいに桜井くんが僕を見る。 「剣介って」 「あ、うんっ」 「ラブラブだねぇ」 桜井くんに茶化されて顔が熱くなった。 いきなり名前呼びって、露骨だったかな? わざとらしく咳払いをして剣介は話題を変える。 「んなことより、お前はどうなんだよ。ちゃんと仲直りしたのか?」 「したよー、もうバッチリ。涼香ちゃんが可愛すぎて逆に困っちゃうくらい」 「んだよ。心配損だな」 「よかったねぇ、桜井くん」 桜井くんはにっこり笑顔で嬉しそう。 ほんとに仲良しだもんね二人は。 お話しつつ数学の問題に取りかかる。 桜井くんは使う公式を教えるとスラスラ解いてしまった。 剣介は手こずってて、丁寧に教えていく。 なんだか先生になった気分。  「ありがと、かっしー」 「どういたしまして」 「剣介も、またね~」 「うるせぇ」 解き終えた桜井くんは自分の席に戻っていった。 僕の真似をして『剣介』って名前で呼ぶから少し恥ずかしかった。 目で追うと、ちょうど涼香くんも来て桜井くんと何か話していた。 「なぁ、この問題さ」 ぼぅっと眺めていると剣介に袖口を揺さぶられた。 「ん、解けた?」 「途中までな。こっからどう解くんだ」 「えっとー。この問題はね、例題2みたいにこことここを掛けて」 ノートと教科書を見て解説していく。 自分で理解できてるか確かめられるし、純粋に教えるの好きだなって思う。 数学は特に好き。 「こんな感じだけど、わかった?」 ざっと説明して顔を上げる。 すると、剣介と目があった。 なんだか、ずーっとこっちを見てたみたい……。 視線が絡むだけでドキドキしてきた。 「……っ、ちゃんと聞いてた?」 「あぁ、いや……おう。ここを掛けるんだろ?」 「そこじゃなくて、こっちだよ」 ずっと僕のこと見てたのかな。 話も聞かないで、僕のことを? それだけで、にやけそうになるのはおかしいかな。 ちょっと焦ってる剣介も可愛らしい。 友達の時以上に、全部好きでいとおしい。 いつもと変わらない昼休みも、特別な日みたいに幸せな気持ちでいっぱいだ。

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