123 / 156
昼休み7 《涼香》
吉良はいつも笑ってる。
だからだ、きっと。
あんな切なそうな表情、頭から離れなくなるに決まってる。
気になって仕方ないんだ。
「吉良」
名前を呼ぶと吉良は首をかしげた。
もちろんその口元には笑みを湛えていた。
むかつく。
澄ましてる吉良も気になってしまう自分にも。
「……なんでさっき、いきなりやめたんだ。お前から吹っ掛けたくせに」
「さっき言った通りだよ。冗談だったから」
「半分、だろ?」
食って掛かると、困ったように微笑みを浮かべる。
「涼香はそういうとこよくないよ」
「そういうとこってどこ」
「そうやって思わせぶりに優しくするところ」
「意味わかんない。優しくなん、て……」
言葉が詰まる。
さっきと同じだ。
眉を下げて目を伏せて、口元にさえ微笑みをのせないで……。
胸がざわついた。
「その時がきたら話すから。それまで忘れて」
思わせぶりなのはどっちだよ。
その顔も冗談ならやめて欲しい。
冗談じゃないのは、もっと困るけど。
なにも返せないで黙っていると、一つため息を付いて吉良はにこりと笑う。
「じゃあ、僕は用事あるから」
手紙をちらつかせて吉良は言う。
花柄のいかにも女子からの手紙だ。
告白、か……。
吉良は教室を出ていった。
あんな悲しい顔、してなかったみたいに。
鼻につく。
忘れろと言うならいっそ忘れてしまおう。
どうせまた気まぐれに匂わせて冗談なんだ。
ため息を吐き俺も席を立った。
あんなよくわからん奴のことで悩むより、龍太郎の顔を見ていたい。
ともだちにシェアしよう!