124 / 156

昼休み8 《涼香》

隣のクラスの龍太郎のもとに向かった。 「龍太郎」 「あ、涼香ちゃーん!」 小走りして抱きついてこようとするのをすんでに止めた。 視線が集まる中で抱きしめられるのは、御免だ。 「ぎゅーしちゃだめ?」 「だめっていうか……ここでは、やだ」 「じゃあ移動しよう!」 「お、おい」 意見する間もなく手を引かれて教室を出た。 廊下にだって階段にだって人はいるのに。 龍太郎の手があったかくて、振り解けない。 図書室についた。 昼間はほとんど人もいない。 奥の書架までくると振り返り龍太郎は期待のまなざしを向けてくる。 「ここでなら、いい?」 しっぽぶんぶん振ってる犬みたいで、可愛い。 そんなこと思って気持ちがほぐれてくる。 返事する代わりに、彼の腰に手を回し体を寄せた。 「んー、かわいい」 龍太郎は独り言みたいに言いながら顔をすり寄せてくる。 髪の毛が頬をくすぐって、さっき龍太郎が口走っていた言葉を思い出した。 「ほんとに、髪切るの……?」 「うん。あ、長いままの方がいい?」 「いや、そういうわけでもないけど……」 ただ少しだけ、寂しい気もする。 それに黒い髪は不安になる 大好きだった彼女のように、離れていってしまうんじゃないかって。 有りもしない幻想だとしても思い込みだとしても、頭を掠めていく。 「涼香ちゃん」 優しく呼ぶ声がして龍太郎の方を向くと、唐突に唇を奪われた。 じんわりと伝わるぬくもりに呆然とする。 「大丈夫だよ」 なんて穏やかな声なんだろう。 いつだってこうして無意識に求めているものをくれる。 言葉も行動も全て。 「俺はずっと側にいるよ」 ずっとなんて、なんの根拠もない言葉に不安も消えていく気がした。

ともだちにシェアしよう!