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再会11 《涼香》
手が、顔が熱い。
あいつの触れた場所が熱を持っている。
嫌いなのに、あんな奴関わりたくないのに……。
どうしてして欲しいことをするんだろう。
いつか母と車に乗ったとき。
彼女は終始無言だった。
暗い顔をして、ただ外を見ていた。
いくら見つめてももう俺を見なかった。
雨の音。
ピアノの旋律。
それだけが耳につく。
そういえば、あの日、運転していたのはあの男だった。
だから何も言わなかったのか?
俺が邪魔だったのか?
邪魔、だったのかもしれない。
俺に向ける愛情など無くなっていたのかもしれない。
寂しくて、手を握ってくれないかと考えていた。
ずっと小さかった頃。
彼女は、よく俺の手を握った。
俺が泣いていたり拗ねたりしたときに手を握ってくれた。
それももう、あの時には忘れてしまっていたのかもしれない。
だから、桜井が俺の手を握ったとき本当に驚いた。
『悲しそうな顔してるから』
悔しい。
何故こいつが気付くんだろう。
こいつが俺の手を握るんだろう。
無意識に求めていた温もりをくれるんだろう。
あいつが触れていた右手が熱い。
熱が引いていくのが寂しい。
黒髪で母と重ねていたあいつが、俺を想っていることが嬉しい。
もっと、側にいてくれればいいのに。
けれどそんなこと、口が裂けたって俺には言えない……。
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