150 / 162

プールと未遂6 《龍太郎》

「お、おい、そんな顔するな……っ。冗談だよ」 慌てて涼香ちゃんはフォローしてくれた。 あ、やばい……。 けっこう心配してくれんだ。 嬉しくて、嬉しくて。 にやけるのを我慢して俯くと、涼香ちゃんは困ったようにおろおろし始める。 「あぁ、もう……めんどくさいっ」 「わっ」 「俺を好きなのは困るけど、そういうのに偏見はないから! だから笑ってろ」 俯いてる俺の頭を涼香ちゃんは荒っぽく撫でた。 もっともっとツンとした態度をされるかと思ってたのに、優しくしてくれるものだから顔がにやけてしまって、ばれないように口元を手で覆った。 「な、泣いてるのか……?」 全然そんなんじゃないのに、口を隠す仕草のせいで泣いてるように見えたらしい。 覗きこんでくる涼香ちゃんと目が合う。 ものすごーく心配そうな困ったような表情だった。 いつも落ち着いていてクールな涼香ちゃんの知らない一面。 優しい。 俺のことも気にかけてくれるんだ。 「……んふふ」 思わず嬉しくて笑い声が漏れた。 「お前……」 一瞬にして不機嫌な顔になった涼香ちゃんは、深く溜め息をついた。 呆れたような、ほっとしたようなそんな溜め息だった。 「ごめん」 「ほんとに呆れた奴だな」 「んふふ。涼香ちゃん、優しいね?」 「お前は……バカだな」 声が優しいから、バカなんて言われても胸が温かくなる。 抱き締めたくてうずうずして、顔はめちゃくちゃにやけた。 「ね、抱き締めたら怒る?」 彼の制服の裾を握って聞くと、涼香ちゃんは嫌な顔じゃなく照れてしまうから、じわりとまた心が満たされていく。 「……調子に、乗るなっ」 裾を掴む手に彼の手が重なる。 ひやりとした指先の触れたところから熱を奪われ、彼の温度に順応していく。 ずるいな、こんな反応。 今でさえこんなにも彼でいっぱいなのに、もっと溢れるほど涼香ちゃんのことしか考えられなくなりそう。 「ただいまー、鍵借りてきたよ!」 ばたばたとうるさい足音と薫の声に我に帰る。 ぱっと涼香ちゃんは手を離してわざとらしい咳払いをひとつ。 「遅いんだよ、ばかおる」 「えー! そんな遅くないよな龍太郎?」 「うん、もう少し遅くてもよかった」 「僕達がいない間に何してたの? 二人とも顔、赤いけど」 吉良に指摘されて、涼香ちゃんがあからさまに反応した。 「なにもしてない! いいから、行くぞ!」 赤い顔で言っても説得力無いのになぁ。 「涼香っちえらいやる気だなぁ?」 「そーだねぇ」 「涼香のあんな照れた顔、初めて見るかも。龍太郎さん、ほんとに何したの?」 吉良でも見たことない表情を俺は見てたのか。 そう思うと嬉しくて、笑顔にならずにはいられなかった。 「ヒミツだよ。ほら、いこ!」 先を急ぐ涼香ちゃんの後を追いかける。 俺も彼の特別になれてる、のかな?

ともだちにシェアしよう!