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プールと未遂6 《龍太郎》
「お、おい、そんな顔するな……っ。冗談だよ」
慌てて涼香ちゃんはフォローしてくれた。
あ、やばい……。
けっこう心配してくれんだ。
嬉しくて、嬉しくて。
にやけるのを我慢して俯くと、涼香ちゃんは困ったようにおろおろし始める。
「あぁ、もう……めんどくさいっ」
「わっ」
「俺を好きなのは困るけど、そういうのに偏見はないから! だから笑ってろ」
俯いてる俺の頭を涼香ちゃんは荒っぽく撫でた。
もっともっとツンとした態度をされるかと思ってたのに、優しくしてくれるものだから顔がにやけてしまって、ばれないように口元を手で覆った。
「な、泣いてるのか……?」
全然そんなんじゃないのに、口を隠す仕草のせいで泣いてるように見えたらしい。
覗きこんでくる涼香ちゃんと目が合う。
ものすごーく心配そうな困ったような表情だった。
いつも落ち着いていてクールな涼香ちゃんの知らない一面。
優しい。
俺のことも気にかけてくれるんだ。
「……んふふ」
思わず嬉しくて笑い声が漏れた。
「お前……」
一瞬にして不機嫌な顔になった涼香ちゃんは、深く溜め息をついた。
呆れたような、ほっとしたようなそんな溜め息だった。
「ごめん」
「ほんとに呆れた奴だな」
「んふふ。涼香ちゃん、優しいね?」
「お前は……バカだな」
声が優しいから、バカなんて言われても胸が温かくなる。
抱き締めたくてうずうずして、顔はめちゃくちゃにやけた。
「ね、抱き締めたら怒る?」
彼の制服の裾を握って聞くと、涼香ちゃんは嫌な顔じゃなく照れてしまうから、じわりとまた心が満たされていく。
「……調子に、乗るなっ」
裾を掴む手に彼の手が重なる。
ひやりとした指先の触れたところから熱を奪われ、彼の温度に順応していく。
ずるいな、こんな反応。
今でさえこんなにも彼でいっぱいなのに、もっと溢れるほど涼香ちゃんのことしか考えられなくなりそう。
「ただいまー、鍵借りてきたよ!」
ばたばたとうるさい足音と薫の声に我に帰る。
ぱっと涼香ちゃんは手を離してわざとらしい咳払いをひとつ。
「遅いんだよ、ばかおる」
「えー! そんな遅くないよな龍太郎?」
「うん、もう少し遅くてもよかった」
「僕達がいない間に何してたの? 二人とも顔、赤いけど」
吉良に指摘されて、涼香ちゃんがあからさまに反応した。
「なにもしてない! いいから、行くぞ!」
赤い顔で言っても説得力無いのになぁ。
「涼香っちえらいやる気だなぁ?」
「そーだねぇ」
「涼香のあんな照れた顔、初めて見るかも。龍太郎さん、ほんとに何したの?」
吉良でも見たことない表情を俺は見てたのか。
そう思うと嬉しくて、笑顔にならずにはいられなかった。
「ヒミツだよ。ほら、いこ!」
先を急ぐ涼香ちゃんの後を追いかける。
俺も彼の特別になれてる、のかな?
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