156 / 165

プールと未遂12 《龍太郎》

ほっとして、嬉しくて、勢いに任せて、涼香ちゃんに抱きついた。 もうなんでもいい。 嫌われてなくてよかった。 膝立ちで細い身体を抱きしめて、頬擦りをする。 「はぁ、まったく……」 「涼香ちゃん、大好きだよ!」 「なっ……!」 彼を見上げて言うと、涼香ちゃんはまた困ったように照れる。 「今度はちゅーしてもい」 言い終わるのを待たず、今度は吉良にチョップされた。 「龍太郎さんって、思ったより馬鹿だよね」 にこにこと酷いことを言われた。 「なんだよ吉良」 「理性より本能が勝ってる人を馬鹿って言うでしょ?」 「バカで結構ですー」 「これだもんなぁ」 吉良には呆れられたけれど、それでもいい。 少しずつでも涼香ちゃんに振り向いて貰えてるって思えたから。 このまま、好きになってくれたらいいのにな。 見上げると、涼香ちゃんは赤く染まる顔を手で扇いでいた。 好き。 涼香ちゃんが大好きだよ。 「おーい、そろそろやろうぜ?」 いつの間にか着替えていた薫は、やる気満々にTシャツを腕まくりする。 吉良も着替えだし、俺もジャージになんなきゃな。 惜しくて離れるか躊躇う。 もうTシャツで覆われてしまっているけど、涼香ちゃんきれいだったなとか。 あのまま未遂で終わらせずに、いろいろしたかったとか。 傷付けずにすんでよかったとか。 白くて滑らかな肌も扇情的な表情も、頭の中でぐるぐる回る。 「おい……いつまで引っ付いてるんだ」 涼香ちゃんをまた見上げる。 赤みの残る頬。 暑いせい? それとも照れてるの? 照れてるんならいーのにな。 ひとつぎゅっと強く抱きついて、体を離し立ち上がる。 そしてにっと笑いかけてみる。 「……っ。早く着替えろよ、置いてくぞ!」 染まる頬。 期待はまた膨らんで張り裂けそうなくらい胸が高鳴る。 「わぁ、龍太郎……かお、顔がゆるみまくってんぞ!」 「ほんとにもう。いちいちいちゃつかないでくれる?」 「涼香っち〜、吉良が焼きもち焼いてるよ〜!」 「焼いてないから、黙って行こうか薫?」 叶わないんだろうなって、ほんとは少し思ってたのに。 涼香ちゃんがあんな顔するから。 好きになってくれたらいいのに。 俺のものになってくれたらいいのに。 離れたのにまたすぐ、抱きしめたくなった――。

ともだちにシェアしよう!