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涼香ちゃんの笑顔 《龍太郎》
笑顔を見られたらってずっと思ってた。
決してわかりやすくて、顔いっぱいに広がるような笑顔ではなかった。
それでも微かに優しく微笑む姿は、目に焼き付いてはなれない。
「涼香ちゃん」
笑顔も素敵だね。
そう伝えようと口を開くのと同時に、顔面にびしゃりと水がかけられた。
「…………」
「あー、手が滑った、ごめんね〜」
吉良がにっこり微笑みつつ言う。
その隣では薫がにやにや笑ってた。
「龍太郎さん達がいちゃつく予感がしてうっかりかけちゃった」
「かけちゃったじゃないよ! 邪魔しないでよもう!!」
何がうっかりだよ!
腹黒王子め……!
ホースを持って肩をすくめる吉良を追いかけようと一歩踏み出す。
裸足の足の裏は水でふやけた藻を踏んだ。
すると氷の上にいるみたいにずるっと滑り、バランスをとろうと着く持つ一方の足も同じように滑った。
完全に重心が後ろに下がり、薄く撒かれた水で飛沫をあげながら、思いっきりしり餅をついて転んでしまった。
「りゅ、龍太郎……」
薫は、ぷっと吹き出し直ぐに大口を開けてぎゃははと笑い出した。
顔が熱くなる。
尻は衝撃で痛いし、水が染みてきて冷たい。
爆笑してる薫の横で吉良は喜々として微笑んでいた。
あいつぜってー、ドSだ……!!
何よりも涼香ちゃんの目の前でこけたのがしんどい。
恥ずかしすぎる。
カッコ悪すぎる……。
「ふ……」
恥ずかしくて恥ずかしくて、俯いているとふと上から笑い声がした。
薫は苦しそうに引きつり気味に笑っている。
吉良はにこにこ、いや、にやにやしてる。
ということは……。
顔を上げて涼香ちゃんを見上げた。
「ふふっ」
口元を手で抑えて控えめに、涼香ちゃんは笑った。
わぁ……やば……かわいい。
そのまま、涼香ちゃんは側に来ると手を差し出した。
「大丈夫か、龍太郎?」
あの時の事を思い出した。
受験の日、落ちたマフラーを拾ってくれたときのこと。
目があって恋に落ちた。
胸がきゅーっとなって好きなんだって思った。
差し出される手を握り立ち上がる。
少し冷たい手にも優しい微笑みにも、また恋に落ちた。
何度だってまたこうして好きになっていくんだろうな。
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