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きらきら 《涼香》

「で、お前らはなんでそんなずぶ濡れなんだ」 一時間ほどして椿根先生はやってきて、俺らを見るなり苦笑した。 あのあと吉良も転び、その隙にホースを奪った薫は吉良、そして俺にも水をぶっかけてきた。 そんなわけで全員見事に濡れていた。 「一応タオル持ってきてよかったな」 「つばちゃんさっすが〜!」 「そんで、掃除は終わりそうか?」 「いや、全然」 「だろうと思った。俺も手伝うからプールん中は終わらせようぜ?」 「やだつばちゃん、いっけめーん!」 「口はいいから手を動かせ梅田」 先生が一緒だと流石にそこまでふざけられず、終わりも見えてきた。 「林宮」 「……なんですか」 ふいに声を掛けられ、手を止めて顔を上げると先生は穏やかに笑っていた。 「関係ないのに手伝ってくれて、ありがとな」 「いえ、別に……」 少し距離を置いたところでは、薫も吉良も何やら話しつつ掃除をしていた。 もちろん桜井も。 「関係ない訳でも、ない、ですから……」 どんな関係かと聞かれれば友達なのかなんなのかよくわからない。 「あんなだけど根はいいやつらだよな。いい友達、できてよかったな」 わしゃわしゃと先生に頭を撫でられた。 あんなふうに楽しそうに騒いでる人達を遠目から見ることはあった。 人とつるむのは苦手で、あんなきらきらした輪の中になんて入らなくていいと思っていた。 「涼香ちゃん!」 思っていたのに。 桜井は俺の名前を叫んでこっちに駆け寄ってくると、俺の手を引いた。 「つばちゃん、せくはら!」 「おいおい、先生頭ぽんぽんしただけよ。な?」 「ああ、撫でられただけだ」 むすっとして桜井は口をへの字にする。 こんなことでさえ嫉妬するなんて。 ほんとに、変なやつ。 思わず笑っていた。 俺のことでこんなにも必死になって、なんというか、可愛い。 しっぽ振ってついてくる犬みたい。 無邪気で邪険にできなくなる。 「涼香ちゃん」 そんなにきらきらした目で見ないで欲しい。 「あ、涼香っちと龍太郎がまたいちゃいちゃしてる!」 「水をかけ足りないみたいだね、龍太郎さん」 こんなきらきらした輪の中に入らなくていいのに。 慣れない感覚がもどかしくて、それでもいつもよりずっと笑ってしまって、心を溶かしていくみたいにあったかくて。 それも全部、桜井のせいなんだと思うと少しだけ悔しい。 「やっとおわったー!」   細かいところはさておき、大まかな部分はだいぶきれいになった。 どれくらいたったのだろう、日は傾き始めていた。 「ねぇ、つばちゃん。俺、プール選択しようかな〜」 薫はタオルで水を拭き取りながらそんなことを口にした。 その顔は、かなりにやけていた。 「せっかく掃除したしな」 「うんうん。俺が掃除したんだぜって女子に言ってもいいよ〜?」 「じゃあ、女子担当の先生に伝えとくな」 「うんうんって、え? 女子担当?」 「おう。そもそも俺はバレーの方見るし」 「そうじゃなくてさ、男女一緒じゃないの!?」 「あー、言ってなかったか? 今のご時世だからなー、別々にやるに決まってんだろ」 あっけらかんと椿根先生は言う。 薫ががっくりと肩を落としたのは言うまでもない。

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