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すきま2 《涼香》
人見知りで友人もなかなか出来なかったせいか図書室にこもってばかりいた。
本は好きだ。
忘れられるから。
嫌なこと、寂しさ、孤独……。
父のことも母のことも忘れたかった。
幸せだったときの事だけを思っていたかった。
国木田は、よく話しかけてきて、俺を知ろうとしてくれた。
一緒に暮らしているのだから自然とわかってくることもあるんだろう。
朝が苦手だとか、食事の好みだとか。
それ以外にも、学校はどうだった、この本はどうだったと聞いてきた。
答えなくても笑っていたし、話してみると熱心に聴いてくれた。
優しくて、満たされた。
ただ、彼は父親ではない。
あくまでもそこだけは譲らない。
「坊ちゃま」と呼ぶのも、タメ口じゃないのもわざとだ。
食事も一緒にはとらない。
寂しさは嫌でも付き纏う。
寧ろなぜあの頃、あんなにも満たされてたのだろう。
『ずっとそばにいるよ、すず』
大好きな彼女一人さえいれば、それで十分だった。
それで満たされていた。
国木田のことも嫌いじゃない。
ただ、もっと近い存在を求めている。
あいつに触れられた感触を思い出す。
桜井の火照った手は熱くて、背中を撫でる仕草によくわからない感覚がした。
ぞわぞわというか、ぞくぞくというか……。
得体の知れない感覚だった。
気持ち悪い訳ではなかった。
あいつのことも、別に嫌いじゃない。
あいつなら、この隙間を埋められるのだろうか。
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