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再会の前に3《龍太郎》
「ねー、龍太郎これ持ってくの手伝ってくんない?」
ある日の四時間目終わりに幼馴染の秋良からそう声をかけられた。
一番前の列の席なのもあり、日本史のワークを集めて持ってきてと先生に頼まれていたのだ。
二つ返事に承諾して、半分ずつ持って職員室へと向かうことにした。
「で、結局話しかけられてないの?」
興味津々という感じで教室を出てすぐ秋良はきりだした。
少し先を俺を振り返りながら後ろ向きに歩き、危なっかしかった。
「うん、きっかけもなんにもないしさー」
「龍太郎、そうやってるとまた中学の二のま」
心配通りに秋良は後ろを歩く生徒と思いっきりぶつかり、反動で抱えていたワークをぶちまけた。
「ご、ごめんなさい!」
秋良が振り返って謝り、俺も彼の方へ視線を向けた。
そこにいたのはあの林宮涼香で、俺まで驚いて手を緩めてしまいそうだった。
彼は特に表情も変えず、真っ先に散乱してる本を拾い上げていった。
慌ててそれに続く秋良。
俺も混乱しつつ数冊を拾って手元に加えた。
「あ、どうもありがと……」
彼は拾ったワークを秋良に渡すと、何にも言わずにそのまま歩いて行ってしまった。
俺と秋良はただ見合って、まるで狐につままれたようだった。
「あれ、どうしたの二人ともそんなとこに突っ立って」
ぼんやりしているとちょうど教室から出てきた吉良が声を掛けてきた。
「いや、ね?」
「うん」
「派手な音してたけど落としたの?」
「うん、それで」
「涼香くんが拾うの手伝ってくれて、びっくりしちゃって」
「あぁ、また涼香の無意識の親切に骨抜きにされる子が現れちゃったか」
吉良はやれやれと苦笑した。
「かっこよかった……」
「龍太郎さんまで涼香に惚れちゃったの?」
「うん、好きだ……」
初めて会ったあの日も、ぶつかった俺に嫌な顔ひとつせずに親切にしてくれた。
愛想が悪いように見えたり言葉が素っ気なかったり、それでいて根はめちゃくちゃ優しそうで、無性に惹かれてしまう何かがあった。
「言っておくけど、涼香のは当たり前のことを当たり前にしてるだけでほとんど本人の記憶から消えるくらいの行為だから」
吉良の言葉通りだったとすると、よりかっこよく思えてくる。
「それなのに勝手に好かれちゃって泣かれちゃって、涼香までしんみりしちゃうんだからどうしようもない子なんだよね」
ああ、それで、あのときもやけに辛そうだったのか。
意中でもない人に想いを寄せられるというのは、わりと迷惑だったりするんだろうか。
「ていうか……それ早く持ってかないと昼休み終わっちゃうよ?」
くすくす笑う吉良に俺も秋良もはっとした。
適当に一言二言交わして吉良と別れるとまっすぐ職員室へ向かった。
先生に渡して教室へ引き返す途中、秋良が口を開いた。
「正直、顔だけ見て好きって言ってるんじゃないのって心配してたけど、案外いい人そうじゃん」
「そうなんだけどさ……」
「うん?」
「……好きなんて言わないほうがいいのかな」
「どうしたのよ、いきなり」
「俺が関わることで悩ませちゃったりするのかなって」
「そんなの誰が相手でも悩むときは悩むでしょ」
「でももし」
「“もし”なんて想像してても実際どうなるかわかんないでしょ! とにかく中学ん時みたくうじうじしてたら、すぐに取られちゃうんだから声だけでもかけるんだよ!」
「秋良……」
「それに言わないで我慢できるくらいの好きに見えないよ?」
秋良は不敵に微笑んで、俺の背中を音がなるくらい勢いよく叩いた。
「あたってくだけろー!」
六月のはじめ、やっと声をかける決心をした。
本気で拒絶されたらどうしようという心配もあったが、嫌われることなんてないという謎の確信の方が強かった。
吉良に聞いて昼休みは図書室に籠もっていると知った。
蒸し暑い昼下がり、一階の図書室へ向かった。
中に入るとクーラーの冷気で少し頭を冷やせたが、それでも奥の席に座っている彼を見つけて、頭の中は真っ白になった。
目と目が合い、あの日を思い出した。
受験の日、その真っ直ぐな瞳から目が離せなかった。
本当にあの人にまた会えたのだと実感すると、顔が緩まずにはいられなかった――。
☆☆☆
ここまで読んでいただきありがとうございます!
他サイトに掲載していた最新話までの更新が終わりましたので、次回からは毎日投稿から不定期更新になります!
ご理解いただけると幸いです!
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