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朝2 《涼香》

朝から電車に乗るのは随分久々のことだった。 席にはつけたもののそれなりに混んでいる時間帯で、乗客の中には うちの高校の制服も多かった。 読みかけの小説を開いてみたが、寝不足も相まって気分が悪くなってきてすぐに閉じた。 ぼーっと流れていく景色を見ているとふと同じ車両に龍太郎の姿をみつけた。 腕を組んでこっくりこっくり船を漕いでいる。 あいつのおかげで最近は少しだけ学校に行くのも楽しめるようになっていた。 廊下で会っただけで心から嬉しそうに笑って声を掛けてくれるものだから、それだけでどうにも心が和んだ。 好かれるということは、同時に相手を傷つけるような気がしてこわかった。 それが、なぜだか彼は違っていて、俺が冷たくしたって構わないようで冷たくなんてできなくなっていて……。 不思議だった。 昨日あのまま唇が触れていたら――。 何度となく考えても、結局、俺は彼を拒絶する想像がつかなかった。 好きとか、そういうのはよくわからない。 ただ……あんなにも強く求めてられて、わずかに跳ね除けるだけじゃ意味もないくらい必死に手を伸ばされたのなら、そこに縋り付いたらどれほど満たされるだろうと想像せずにはいられなかった。 龍太郎はそのまま隣に座っている眼鏡の男の肩にもたれかかった。 制服からして同じ高校の生徒のようだが見たことはない。 そういえば、俺はたいして彼のことを知らない。 一方的に聞かれることはあったが、俺の方は全然あいつのことを知らなかった。 「龍太郎くんってかっこよくない?」 ふと、噂話が耳に入った。 声の方をちらっと見ると去年クラスメイトだった女子たちの姿があった。 「あんたほんと男選ぶセンスないよ」 「えー、なんで? めっちゃ優しくない?」 「優しいのはわかるけどさ、中学で女の子とっかえひっかえしてたって聞いたよ」 「うっそ……ほんとに?」 「同中の子が話してたからほんとだよ。しんじらんないよねー」 ただの噂話だ。 あんなお人好しで一途な男がそんなことと、思おうとした。 それでも、その話は胸をざわつかせて仕方なかった。

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