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朝3 《涼香》
高校前の駅について降り、そこからは数分歩く。
何人かにちらちらと見られたが、それ以外は特になんにもなかった。
前を歩いている龍太郎は隣の眼鏡の男と何やら楽しそうに話していた。
ここにいるなんて思わないだろうし気づかないか。
なんて、期待しているみたいで一人決まり悪くなる。
学校に着くとその足で図書室に向かい、読み終わっている本を返却した。
それから教室に戻り机に教科書を入れながら、そういえば課題に手を付けていないことに気がついた。
昨日はいろいろありすぎてすっかり頭から抜けていた。
課題と言っても英語のプリント一枚だけだったからよかったが。
「おはよう」
しばらくして吉良が登校してきた。
「めずらしいな、涼香が家でしてこないなんて」
「気が散るから黙ってろ」
「朝からつんけんしちゃって、なんかいいことでもあった?」
くすくすと笑って聞いて来る吉良を軽く睨む。
「まさか龍太郎さんのこと気にしてたり?」
吉良は俺に顔を寄せて、声を潜め言う。
集中したふりをして何も返さないでいると、肩をすくめてまた含み笑いを浮かべた。
「そりゃああんな事されたら、気になっちゃうよねぇ」
事実昨日のことは何度も考えてはいたが、それだけじゃなく国木田や父や今朝の噂話もあって、そう単純ではなかった。
「うるさいって、言ってるだろ」
「はいはーい」
語気を強めても吉良はただ笑うだけで、素直に自分の席に戻って行った。
まったく頭がついていかない。
人と関わろうとするとこんなにも落ち着かなくて面倒くさいんだと、今更じわじわと実感し始めていた。
いざ集中しようとすると今度はばたばたと龍太郎がやってきた。
「涼香ちゃんおはよ!」
なんだか浮かない顔だった。
「……おはよう」
「今日、電車で来てたんだね」
「ん、あぁ」
人づてに聞いたような言い方だった。
「三組の女子が騒いでてさ、聞いたら電車の中で涼香ちゃんの写真勝手に撮ってたって」
「写真……」
「盗撮ってやつ? 消すように頼んで来たとこ」
「……そうか、ありがと」
そういえば、中学や高校に入ってすぐの頃にもこんなことがあった。
バスや電車内で盗撮とか無駄に近くに寄られたりとかいろいろ。
それで結局、一人での通学をやめて車で送り迎えしてもらうことにしていたのだった。
迷惑は迷惑だったのだが写真くらいいいかといつも諦めていた。
それなのに、龍太郎はこんなにさらっと対処してしまうのか。
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