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朝4 《涼香》
「俺、K市の駅までだから、そこまで一緒にいれるし」
あぁ、そういえばあの噂。
本当なのだろうか。
「一人でいるより安全だろうし、よかったら帰り……」
女の子をとっかえひっかえ、ってことは少なくとも二人以上とそういう関係だったということ。
ただの交際だったのか。
それとも……肉体的な?
「涼香ちゃん?」
顔を覗き込まれはっとした。
「大丈夫? やっぱなんか、顔色も悪いような……」
「いや、へいき」
「ならいいんだけどさ。それで、帰りも電車なら一緒に帰ろ? なんかあったら俺が守るから」
そう言って龍太郎は俺の手を握った。
「……いいけど。守るとか……おおげさ」
「そうかなぁ?」
「それにお前、居眠りして……」
「え、もしかして寝てるとこみてたの?」
「……」
「わ、はっず」
珍しくほんとに恥ずかしそうに龍太郎ははにかむ。
ずっと見ていたのがばれてしまって、こちらも気が気でなかった。
「ふーん、僕のことは邪魔にするのに龍太郎さんとは話すんだ?」
いつのまにか近くに来ていた吉良に、前触れもなく肩をつかまれ変な声が出そうになる。
「いきなり触るなバカ」
「バカとは失礼だなぁ。龍太郎さんに夢中になって涼香が気づかなかっただけでしょう?」
「っ、そんなわけあるか!」
にやにやとからかってくる吉良を睨みつけるも効果はない。
おまけに龍太郎は龍太郎で、吉良の冗談混じりの文句を真に受けて嬉しそうにしている始末だ。
「おはよー。なに朝から盛り上がってんのー」
さらにはちょうど登校してきたらしい薫までやってきた。
「昨日さんざん懲らしめたのに涼香と龍太郎さん、まーたいちゃいちゃしててね」
「ただ話してただけだ」
「のわりに龍太郎の顔でれっでれだぞ涼香っち」
「かおる〜、涼香ちゃんかわいすぎて無理」
朝から騒がしくて仕方ないのに、居心地の良さを感じている自分もいる。
未だにこうして輪の中にいるのは慣れないし、人と関わるとどうしても面倒くさい部分もあるのに。
「涼香っちも割とまんざらでもなさそーよな?」
薫の言葉に龍太郎は、期待を寄せるようなきらきらした目で俺を見てくる。
しっぽをぶんぶん振ってるのが見えそうなくらいで、つい頬が緩んだ。
「……さあな」
噂の真偽がどうであれ、俺が知っているのは今の龍太郎だけ。
こんなに一途な男が、優しい男がそんなことするなんて想像もつかない。
もし真実だったとしても、お人好し故に断れなかったとか、きっとそんな感じだろう。
『中学で女の子とっかえひっかえしてたって聞いたよ』
少し前なら、離れるきっかけにしようとでも思っただろうか。
拒絶する理由に。
「さぁな……、だってよりゅうーたろー!」
目が合うと本当に幸せそうに微笑む龍太郎。
「涼香ちゃん! 俺も涼香ちゃんに夢中だよ」
だけど、少しだけ思ってしまうんだ。
こいつらと、龍太郎といる時間が悪くないって。
どうしようもなく、思ってしまうんだ。
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