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たくらみ《涼香》

「涼香ちゃん」 昼食を済ませ図書室にでも向かおうかと思っていると、龍太郎がやって来た。 どこかそわそわと浮ついた様子で、相変わらず緩んだ顔をしている。 「涼香ちゃんさ、好きな食べ物なぁに?」 「なんだよ、いきなり」 突拍子もない質問に戸惑った。 「ただ、なんとなく?」 「なんとなくって……」 はにかむ龍太郎を怪訝に思い見上げる。 「ね、今度さ」 「おい龍太郎!! ちょっと来て!」 彼の言葉を遮るように、教室の入り口から薫の声が響いた。 「薫だ、なんだろ。ちょっと行ってくるね」 龍太郎が教室を出て行くのを見送り一息ついた。 全く慌ただしいやつだ。 今度こそ本を取り出そうと視線を下げ、机の上に俺のじゃないスマホを見つけた。 犬のキャラクターのステッカーが挟まれたそれは龍太郎のものだろう。 そそっかしいやつ。 すぐ戻って来る様子もなく、仕方なく届けに行くことにした。 ひとまず隣の龍太郎達の教室を覗きに行くと案の定、薫と二人で話して騒いでいるのが見えた。 大げさに膝をついて何やら頼み込んでる薫と首を振る龍太郎。 あいつらほんと仲良いよな。 と、カシャっとすぐ近くでシャッター音が聞こえ咄嗟に振り返った。 そこには満面に笑みを浮かべた吉良が立っていた。 「……おい」 「いいでしょ、写真の一枚くらい」 「良くない。消せよ」 得意げな彼のスマホに手を伸ばす。 「結局僕のプリント写させてあげたでしょ?」 「う……」 今朝話し込み過ぎて課題が間に合わなかったのもあり、吉良の手を借りてしまったのは事実だった。 「それとこれ、新刊出てたの知ってる?」 「! 昨日発売の」 吉良の手にはずっと発売を楽しみにしていた小説シリーズの新刊があった。 「これと写真、等価交換ってことでどう?」 「いいのか?」 「うん、プレゼントしようと思ってたんだ、もともと」 「……なにか企んでるのか?」 「ふふ、涼香には何もしないよ。安心して? ほら」 「あ、ありがとう」 腑に落ちない点は多々あったが、欲望に負けて本を受け取った。 吉良は満足そうに微笑んで、その足で龍太郎達の元へ向かう。 そうだスマホと思い出し、俺も後に続いた。 「だから、俺忙しいし無理!」 「そこをなんとか」 「無理無理! そんな上手くもないし」 龍太郎と薫は未だにじゃれ合っていて、龍太郎の足に縋り付くようにして薫がなにやら頼み込んでいた。 「龍太郎さん」 「あ、吉良……と涼香ちゃーん!」 さっき会ったばかりと言うのに龍太郎は俺を見ると嬉しそうに声を上げる。 「こら涼香っちはいいから話を聞けー!」 「だから俺、人前で演奏はしない!」 「龍太郎さん」 薫にしがみつかれながらも立ち上がろうとする龍太郎に、吉良がちらりとスマホの画面を見せた。 「――!? 吉良様それは…!」 「涼香ね、さっき龍太郎さんのことをじっと見つめながら、こんな表情をしてたんだ」 「っ!? おい、お前……!!」 語弊のある言い方をする吉良のスマホを奪おうと手を掴む。 そんな俺を気にもとめず、吉良は爽やかに微笑んで龍太郎に向かって言葉を続けた。 「もし、助っ人してギター弾いてくれるなら、お礼はもちろん……」 「はい! 弾きます! 弾かせてください!!」

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