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手のひらの上《涼香》
結局、龍太郎は俺の写真なんかにつられてライブに出ることになったようだった。
というのも、吉良と薫は軽音部に所属していて、そのバンドでの演奏を文化祭で披露するらしい。
「んふふ」
「何見て笑ってるの龍太郎? えっちな写真~?」
「いんや、もーっと良いものだよ秋良」
「もっと? ねーちょっとだけ見せてよ!」
「だーめ、これは俺んのなの!」
HRも終わり掃除を済ませて教室に戻ると、隣の教室前の廊下で龍太郎と仲の良いらしい女子生徒が話しているのが見えた。
龍太郎の手にはスマホがあって、何を見てにやけているのかは容易に想像できた。
写真の一枚くらい、気にするほどでもないと了承してしまったが、ここまで反応されると正直いたたまれない。
教室に入り荷物をまとめ、帰り支度をした。
なんだかやけに長い一日だった気がする。
「涼香、放課後暇だよね?」
席を立とうとすると吉良が現れた。
また何か企んでるのかと思いつつも素直に頷くと、吉良はにっこり笑い俺の腕を引いて廊下に出た。
「あ、涼香ちゃーん!」
未だに廊下で話し込んでいたらしい龍太郎は俺を見ると駆け寄ってくる。
「薫早く、杏ちゃんも!」
吉良に呼ばれ教室で話している薫と彼の彼女で同じく軽音部の藤川杏 も教室から出てきた。
そんなわけで、ぞろぞろと軽音部の連中に連れられて3階の部室までやってきた。
楽譜や楽器を用意している彼らの中で正直、場違い感が否めなかった。
「で、龍太郎さんに入ってほしいのがこの曲で」
吉良が早速、話し始める。
「ギターだけだと寂しいってんなら歌ってもいいぞ? 俺の変わりに」
「いいね龍太郎くん歌うまいし」
「な? そうだよな?」
薫と藤川に更にそんなことを言われ、龍太郎は焦ったように首を振る。
「だーかーらー、全然だし。まじハズいから無理だって」
「いいんじゃない? 龍太郎さんならいけるよ」
「涼香っちに捧げる恋のうたぁ~!」
薫のふざけた歌を聞いて龍太郎がこちらを見た。
目が合って、なんだよと目を細めると、ぼそぼそと龍太郎は言った。
「涼香ちゃんがライブ聞きに来てくれるなら考える……」
「え?」
そんなことで決めて良いのかよ、とまた内心突っ込んでしまう。
呆れて目を逸らすと、期待に満ちた薫と目が合う。
隣の藤川も面白がっているようだし、吉良も首をかしげて俺を見つめてくる。
総じて頷くことを望んでいるような視線が俺に向けられていた。
「ま、まぁ……」
口を開くとますます全員の圧が強くなり、流れに任せ、つい頷いていた。
「別に聞きに行っても、良いけど……」
「よしゃー! さすが涼香っち!」
ハイテンションで抱きついてくる薫。
慌てて引き剥がすように龍太郎が間に入ってくる。
視界の端に吉良の勝ち誇ったような笑みがちらりと見えた。
なんだろう。
何から何まで吉良の手のひらの上のような気がしてならなかった。
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