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連絡先《涼香》

薫がギター、吉良がベース、藤川がドラム。 3人が曲を合わせている間に、龍太郎が他の生徒から借りてきたギターを俺の隣で弾いていた。 「涼香ちゃんって楽器弾けたりする?」 「……ピアノなら少し」 「え、すご。なんかイメージあるね」 「そうか?」 「うん。涼香ちゃんもキーボードで出る?」 「出ない」 即答すると、それでも龍太郎は満足そうに笑う。 演奏に合わせて、薫ののびのびとした歌声が響いた。 「薫、歌上手いよね」 頷くと龍太郎も薫の歌声に合わせて小さく歌い出す。 体に響くような音に揺られて、不思議と居心地の良さを覚えていた。 ドラムが置いてある軽音部の部室は1時間ほどで他のバンドと交代らしく、しばらくして空き教室に移動する事になった。 藤川は用事があるからと先に帰り、残りの4人で教室に向かった。 「な、涼香っちも一緒に」 「やらない」 「タンバリンとか」 「やらない」 冗談半分の薫のしつこい勧誘をその度あしらった。 そんなやり取りを珍しく気にもとめず、前を歩く龍太郎は小声で何か吉良に話していた。 教室に着くと、おかしそうに笑って吉良が切り出した。 「涼香スマホ出して?」 「何だよいきなり」 「こんなにお願い聞いたんだから、涼香の連絡先くらい教えろって龍太郎さんが」 「あーもー! そんな言い方してないでしょ!!」 「えーいいじゃん俺も! 俺も涼香っちと交換したい!」 薫に詰め寄られ、次いで龍太郎も俺の顔を覗き込む。 咳払いして吉良も目配せしてくる。 なんだか今日はこいつにしてやられてばかりな気がする。 「わ、わかったから、二人とも近い!」 なんだかんだでトークアプリの連絡先を二人と交換することになった。 早速龍太郎から「涼香ちゃん!ありがとね」なんてメッセージと共に犬のキャラクターのスタンプが送られてくる。 「わぁ、やば。涼香ちゃんの既読ついた!!」 机に突っ伏してじたばたと暴れる龍太郎。 そんなことですらこんなにテンション上がるなんてと呆れていると今度はグループの招待が来る。 「涼香っちみてみてこれ! 龍太郎の若かりし頃」 4人でのグループにさっそく薫が写真を送信して来た。 「ちょっと薫!? 変なの送らないでよ!」 金髪に髪を染めた龍太郎と薫、二人の写真だ。 「それなら僕も、こないだ撮った龍太郎さんの変顔が」 「吉良! 吉良様、まじやめて!」 あぁ、だめだこんな空間。 じんわりと胸が温かくなって、小さな寂しさも虚しさもどこかにいってしまう。 結局練習は殆どすることなく、じゃれ合うような時間が過ぎていった。

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