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穏やかな夜《涼香》

龍太郎と駅前で別れて帰宅した。 送っていく、なんて言われたが、逆方向らしいので引き止めた。 賑やかな学校でのこともあり、なんだか無性に疲れを感じた。 嫌な疲労では、無いけれど。 家に着き、玄関の扉を開ける。 パンプスが揃えてあり、かすみさんが既に来ていることがわかった。 リビングに向かうと奥のキッチンからいい香りが漂ってくる。 挨拶しておくべきかと、そのままキッチンに向かうと、コンロの前に立つかすみさんがぱっと振り返って目が合った。 「おかえりなさい、涼香くん。久しぶりね? わぁ、すっかり大人っぽくなっちゃって」 「お久しぶりです」 彼女は俺が小さい頃から家政婦として度々うちに来ていた人だった。昔馴染みではあったが、3年前に彼女が結婚を機に職を離れてからは会っていなかった。 ふんわりとパーマをかけた茶髪を後ろで束ね、すっきりとした雰囲気は昔のままだった。 心配していたが思っていたよりも話しやすく、二人で夕食をとった。 こうして誰かと食事をするのは、かなり久しぶりな気がした。 忙しい父と同席することはまず無いし、国木田も一緒には食事をとらない。 当たり前になっていたそれが、寂しいことなんだと何となく思った。 「お口に合うかしら?」 「はい、美味しいです」 「そう? よかった」 彼女は母より若い。 とはいえ、もし今も母がいたならこんな風に食事をしていたのかもと、想像せずにはいられなかった。 夕食後、部屋に戻って本を開こうと机に向かい、視界に入ったスマホに通知が来ているのが見えた。 見ると4人でのグループにまたくだらない写真ややり取りが繰り広げられていた。 俺は別段何を送るでもなくそれを眺めた。 国木田や父のいない寂しさもまるで感じないくらいに、穏やかな夜だった。

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