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雨とキス5《涼香》

階段を上がって廊下の右側、龍太郎の部屋がある。 部屋の端にベッドがあり、カーテンの開いた窓には未だに雨が打ち付けていた。 服のかかったハンガーラックや本棚の他に、部屋の隅にはギターも置いてあった。 物が多い割に思ったよりもきれいに整えられている。 ベッドの手前に置かれた小さなテーブルの上にお茶を置いて、龍太郎はラグの上に腰を下ろした。 俺も扉を閉めて部屋に入ると、彼の向かい側に腰を下ろした。 小さく咳払いして、龍太郎はそわそわと落ち着かない様子で髪の毛を弄くった。 「……バイト、大丈夫だったのか?」 彼のいつもと違う様子にこっちまで若干緊張してくる。 気まずくてそう声を掛けると、龍太郎は顔を上げてこちらを見た。 「うん、大丈夫。おじさんのカラオケ屋でバイトしてるんだ。だから、融通きくの」 親類の店なら、まぁ、きっと大丈夫なのだろうと、少しほっとする。 「それより、涼香ちゃんこそ平気?」 「……別に」 平気かと言われるとよくわからない。 突然のことで少なからずショックを受けていた。 「国木田さんにはもう連絡した?」 「いや、まだ……」 龍太郎に言われて気付いた。 話しておくべきだろうと電話を取り出した。 仕事で出ないかもと思ったがすぐ繋がり、事のあらましを説明していく。 かすみさんに泣きつかれて、そして、キスされたこと。 不安定な彼女の様子に、どうしようも出来ず家を飛び出したこと。 「今は、龍太郎の家に」 国木田は電話口でもわかるくらいにかなり心配しているようで、何度も謝られ、そしてすぐに戻ると言ってくれた。 「国木田さん戻るまでうちにいたらいいよ」 「そんなの、迷惑だろ」 「全然! むしろうれしいくらいだし」 屈託なく微笑む龍太郎に呆れるばかりだった。

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