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雨とキス6《涼香》

電話で話しながら、改めてキスされた事を思い出した。 かすみさんは優しくしてくれて、決して悪い人なんかじゃない。 ただ耐えきれないくらいに孤独や絶望を抱いてしまったのだろう。 誰の目にも映らず、いくら待っても満たされない。 そんな寂しさを俺は知っている。 それでも受け入れられなかった。 同情こそすれど、俺には彼女を受け入れて慰めることなんてできそうもなかった。 生ぬるい吐息や香水の匂い、頬に落ちた涙の感覚……。 はっきりと思い起こすと、また不快感が襲ってきた。 「チョコしか無かったけど食べる?」 再び1階に降りていった龍太郎が戻ってきた。 机の上に個包装のチョコを置き、俺のすぐ横にしゃがみ込んだ。 「母さんたちまだ仕事みたいで、お腹すいてるならなんか作ろうか?」 「いや、いい……」 「そう? なにか必要なものあったら言ってね」 何から何まで気を遣って優しくしてくれる龍太郎。 彼の笑顔を見つめながら、まだぼんやりとした感覚が抜けなかった。 キスしたのは別に初めてなんかじゃない。 だからかすみさんとのキスだってたいしたことじゃない。 そう、思いたいのに。 未だに感触が残っているようで落ち着かない。 そういえば、龍太郎ともキス、しそうになったんだっけ。 蒸し暑い放課後の更衣室で二人きりになり、彼の気持ちをいまいち理解しきれていなかった俺に彼は迫ってきた。 素肌の背中に手を回され、興奮気味に引き寄せられて……。 状況だけみれば今日よりもっと、酷いはずなのに。 なのに、俺は。 「ど、どうかした……?」 視線が絡み、頬を染め、それでも龍太郎は真っ直ぐ俺を見ていた。 「いや、……」 言いながら顔が熱くなるのがわかった。 「そんなじっと見られたらドキドキしちゃうよ」 あぁ、まただ。 俺で意識しているんだと思うと堪らなく胸が満たされる。 彼の薄い唇につい視線を向けていた。 あいつとしたらどんな感じなんだろうなんて、思考がちらつく。 目の前にこいつがいるのに何を考えてるんだろう。 それに、今更ながら俺のことを好きだと言っている相手の部屋にのこのこやって来てしまって、俺は何をしてるんだろう。 振り続ける雨の音よりもずっと自分の心臓の音が耳についた。

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