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雨とキス7《龍太郎》
落ち着けと何度も何度も心の中で繰り返していた。
涼香ちゃんは急に赤くなって、まるで照れてでもいるようだった。
意識したらダメだって言い聞かせてるのに、こんな表情をされたらどうしたらいいんだろう。
この間、俺も半ば強引にキス……してしまいそうになった。
もし本当にしてしまっていたら、彼を傷つけていたのは俺かもしれない。
だから絶対に触れないって、そう、心に決めたのに。
なんで涼香ちゃんはこんなにもいじらしい表情で見つめてくるんだろう。
「そんなじっと見られたらドキドキしちゃうよ」
そう言ってみるのに、彼は頬を染めたままぼんやりと俺を見ていた。
空気に飲まれちゃだめだ、勢いに飲まれちゃ。
『次はない』って言われたじゃないか。
『調子に乗るな』って。
涼香ちゃんは真正面から見ても、非のつけようもないくらい整った顔立ちをしている。
お風呂上がりでふわっとした髪の毛は少し乱れていて、俺の貸した服を着て、俺の部屋で2人きり。
「涼香ちゃん……ねぇ、悪いことしたくなっちゃうよ?」
本当に嫌ならそんな顔しないはずだから。
本当に嫌ならそもそもうちにだって来てないはずだ。
だから……。
気持ち悪がるわけでもなく、嫌がるわけでもなく、涼香ちゃんは寧ろ求めるようにちらりと俺を見た。
頭が真っ白になって、彼の側に膝をつき、反応を伺った。
いじらしく頬を染めて、視線を彷徨わせる涼香ちゃん。
彼の座っている横に手をついて更に近くに顔を寄せた。
「俺、言ったからね。嫌なら、そう言って?」
緊張で声がかすれる。
伏せた目のまつげが長い。
耳まで赤くなる彼の頬にそっと手を添えると、涼香ちゃんはぎゅっと目をつむった。
ダメだ、空気に飲まれちゃ――。
そんな最後の理性も手放して、本能のままに、彼の薄く色づく唇にキスしていた。
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