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お泊り2《涼香》

賑やかで楽しい夕食だった。 両親ともに心配してくれて、事情を話すと明日もいてくれていいよとそう言ってくれた。 急に押しかけることになったのに、迷惑だなんて微塵も思っていなさそうだった。 むしろ龍太郎を茶化しては面白がる始末で、本当に変わった人達だと思った。 夕食後、また龍太郎の部屋にやって来た。 すっかり外は日が落ちてしまった。 龍太郎は暗い部屋に明かりを灯し、カーテンを閉める。 二人きりになるとやはりさっきの事を思い出してしまうからか、ぎこちない空気が流れた。 龍太郎はタンスを漁り、ラックからTシャツを取ると、ぱっと俺を振り返った。 「じゃあ、俺風呂入ってくるね。その、ゆっくりしてて」 「あぁ……ありがとう」 出ていく龍太郎を見送って、一人きりになりふぅと息を吐いた。 ベッドを背にして座りぼんやりと部屋を眺めた。 頭には自然と先程までの満たされた時間が浮かんで来る。 きっとそれは普通で当たり前で、どこにでもあるものなんだろう。 お父さんがいてお母さんがいて、一緒に食卓を囲む……。 だけど、それは俺には無いものだった。 どれだけ欲しても手に入らないものだ。 きっとお母さんもかすみさんも、そう。 温かさを求めてしまうのは、寂しさを埋めたいと思ってしまうのは人の性なのかもしれない。 だから、俺も……。 「……」 唇の感触を思い出して、頬が熱くなる。 灯りに引き寄せられる夏の虫のように。 それが危険だとわかっていながらも、俺には相応しくないとわかっていながらも、手を伸ばしたくなってしまう。 どうにか気持ちを鎮めたくて深く息を吐いた。

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