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お泊り3《龍太郎》

傷つけたくないってそう思っていたのに、つい、また流された。 柔らかくてつるりとした感触がまだぼんやりと残っている。 気にしないようにって思えば思うほど、頭が彼のことでいっぱいになる。 突然のことで頭がおかしくなりそうだ。 まるで涼香ちゃんから求める様な雰囲気だった。 だけどそれは、きっと俺が求めてるものとは違うのかも知れない。 ただ上書きしたかったとか、混乱してたとか……。 いろいろ理由を考えてみるけど、それでも思わずにはいられなかった。 少しでも俺のことを求めて、好きに、なってくれてたらなって。 でもだとしたら、余計にもっと大事にするべきだったんじゃないか? 「お兄ちゃんまだー?」 茉子の声にはっとして湯船から出た。 「今上がる!」 どうにも二人きりになると意識してしまって、つい長風呂してしまった。 あぁ、何がなんだかわからないけど、夜は長い。 これ以上流されたり、空気に飲まれたりしちゃいけない。 だけど、どうしよう、大好きな子とひとつ屋根の下。 しかも一緒の部屋で眠るなんて、俺耐えられるのだろうか。 いやもしいい雰囲気になったら、それはそれでありだけど。 まって落ち着け俺、そんなことあるわけ……でも……。 「茉子頼みがあるんだ」 服を着て髪を乾かしてもなお落ち着かない俺は、脱衣所の前で待つ妹に頭を下げた。 「な、なに? いきなり」 「頼むからひと思いにぶん殴ってくれ」 「……」 めちゃくちゃ引きつった顔をした我が妹が、黙って俺の横を通って脱衣所に入っていった。 「妹君、兄の顔を思いっきり」 「いいから早く出てってよ!」 バタンと勢いよく扉を閉められてしまった。 はぁとひとつため息をつく。 我が冷たい妹よ、兄が今夜を堪え忍べるようにどうか祈っていてくれよ。 「よし……」 最後にもう一つ気合いをいれて俺は涼香ちゃんのいる自室に戻った。

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