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夢見心地《龍太郎》

夢のような週末だった。 まさか涼香ちゃんとお泊りしちゃうなんて。 彼からしたらそう単純ではないとわかっているけれど、それでも俺は彼と過ごせた時間を特別に思わずにはいられなかった。 彼とキスしてしまったことも――。 「おい、ぼーっとしてないで行くぞ」 「あ、うん!」 ホームに電車が来て、涼香ちゃんと2人で乗り込んだ。 朝は苦手らしい涼香ちゃんは、いつもよりぼんやりした様子。 そのちょっとした油断や、隙のある姿を見られることが幸せだ。 ちょうど通勤通学の時間帯で人は多かったが、空いている席に腰掛けることが出来た。 週末が、2人でいられる時間が過ぎていくのが惜しい。 けど少なからず前には進めている気がする。 中学の頃のように、何も出来ずに終わってしまうこと無く。 それだけで、あの頃のような苦しさも、心の行場のない感情もない。 俺も少しは成長できてるのかな? 横に座る涼香ちゃんを見ると目が合った。 驚いたように彼の瞳が見開かれて、そしてすぐ逸らされた。 「どうかした?」 「いや……その」 何か言いたげな彼の言葉を待った。 「迷惑掛けたよな……いろいろと」 もう一度ちらりと俺を見て、涼香ちゃんはぼそぼそと言った。 「ううん、全然。むしろ楽しかったくらいだよ」 少しは彼を助けられたかな? 役に立てたかな? そうならいいなと思いながら微笑みかけると、さっと頬が赤く染まる。 いじらしげな涼香ちゃんに胸がいっぱいになっていると、ふと馴染みのある声が聞こえてきた。 「りゅうー、おはよ!」 顔を向けると幼なじみの江がいた。

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