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もしも《江》
彼を初めてみた時、もしかしたらって思った。
色素の薄い髪の毛はサラサラで、涼しげな印象的な瞳、決して柔らかな表情じゃないのに目を引かれてしまう。
その人が、りゅうの話していた想い人なんだってすぐわかった。
一学年上の彼を、それでも噂で聞いたことがあった。
高嶺の花の林宮涼香。
「江は会うの初めてだったっけ? こちら林宮涼香くん」
りゅうの紹介で会釈すると彼もやや困ったように返してくれた。
「んで、幼なじみの樺島江。同じ学校だけど俺らのいっこ年下なんだ」
「どうも!」
軽く挨拶を済ませてりゅうの隣に座った。
「今日は先輩と一緒なんじゃなかったの?」
「あー、松谷さんから連絡なくて。寝坊かも」
「あーね」
「てか、涼香さん電車通学だったんだね? 今まで見かけたこと無かったかも」
乗ってる時間帯が違うのかも知れないが、入学してからの2ヶ月ほど姿を見たことはなかった。
「まぁ、それは、色々事情があってこの数日だけ、ね?」
「あぁ、まぁ……」
なにやら意味深に2人は見つめ合う。
にしても、
「いつの間にそんなに仲良くなったんだよ、りゅう」
前聞いた時にはちょっと会話できただけではしゃいでたってのに、一緒に登校する仲になってるなんて。
りゅうが男を好きになったと聞いた時かなり驚いた。
今まで考えたこともなかったし、いまいち実感もなかった。
ひっそりと想うならまだわかる。
それがりゅうは堂々とアタックしている。
昔から謎に大胆なとこあるよな。
「いやぁ、もうね? 江くんには話せないくらいの仲に……」
「変な言い方するなっ」
仲良さげな2人の様子に思わず笑いながら、ぼんやりと、なんとなく胸に引っかかる。
もし俺と松谷さんがそうなら?
少し抜けていて、でもいつも辛い時に側にいてくれた彼を、俺は確かに大好きだ。
それが友達としてなのか、もう一歩先のものなのか、恋愛経験の乏しい俺にはまだよくわからない。
電車のドアが閉まりかけた時、慌てて乗り込んでくる人の姿が見えた。
背が高く、しっかりした体格の黒髪の優しそうな男子生徒。
きょろきょろとあたりを見渡す彼と目が合うと、一瞬で彼は表情を緩める。
松谷さんの笑顔に、きゅっと胸が締め付けられた。
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