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修羅場?《涼香》

龍太郎と一緒に家を出て登校するのは、不思議な感覚だった。 何気ない会話をして、隣を歩いて、彼の友人にまで紹介されて。 賑やかな朝のおかげか、思っていたよりもずっとこの週末のことで、頭を悩ませずに済んでいた。 それよりもむしろ、心をくすぐられる様な気持ちに気付かないようにするのに必死だった。 こんなにも長い時間一緒にいても、落ち着ける相手はそうそういなかった。 そんな相手にあいつがなりつつあることを認めてしまったら、なにかが変わってしまうような気がして、どうにか踏みとどまっていた。 学校に着き、樺島と松谷さんと別れ教室に向かった。 教室の前につき龍太郎とも別れた。 思いの外、悲しむわけでもなく、ただ「またね」と言って。 自分の席につき、なんだか久しぶりに一人になったような気がした。 まだHRまでは時間もある。 どことなく落ち着かず、図書室に本でも借りに行こうかと席を立つ。 教室を出ようとしたところで吉良に会った。 「やぁ、涼香おはよう」 吉良は朝から上機嫌に微笑む。 「今朝は龍太郎さんと来てたんだってね」 どこから聞いたのかそんな事を言われた。 「……だったらなんだよ」 「いやぁ、別に? 随分仲がいいんだなって、少しさみしくてね。あんなに僕にべったりだった涼香が他の男に絆されちゃって」 「いつべったりなんてした。変な言い方するな気色悪い」 「僕と過ごしてきた時間は短くないはずなのに、薄情だなぁ」 朝からダル絡みをしてくる吉良に少なからずイラっとしてしまう。 そんな俺達の声を聞いてか、隣の教室から龍太郎が顔を出した。 「吉良おはよ……って、近いよ!!」 龍太郎に手を引かれて吉良と距離を取らされる。 「龍太郎さん、少し涼香に気を許されたからって調子に乗らないでよね」 「それは俺と涼香ちゃんの問題だから。いちいち口を出さないでよ」 まるで修羅場のような軽口を言い合う2人に、呆れて言葉も出ない。 「第一、僕と涼香との仲を知りながら、間に入ってこないでくれる」 「それを言うなら、俺と涼香ちゃんだって一夜も二夜も過ごした仲だよ?」 ふふんと鼻を鳴らして得意げな龍太郎に、思わず彼の腕を軽く叩いて睨みつけた。 「一夜も……って、ふぅん、へぇ。詳しく聞かせてもらおうじゃない」 吉良の目の色が変わり、龍太郎はこちらに満面の笑みを浮かべながら口を開く。 「この週末は本当に楽しかったよね? 2人でお泊り」 「おい、……お前いい加減に」 「おー! おはよー! なーに話してんだー?」 薫がやってきて更に騒がしくなる朝。 その輪の中に俺がいるのは、未だに不思議な感覚がある。 それでも少なからず愛着を、居心地の良さを覚えてしまっているのもまた事実だった。 「龍太郎さんが涼香を家に連れ込んだらしいよ」 「とうとう、やったのか龍太郎!?」 前言撤回。 吉良と薫の2人に居心地が悪いくらいに週末の出来事を、根掘り葉掘り問い詰められたのは言うまでもなかった。

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