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難題《早苗》

四時間目の数学の時間になった。 数科目は2組合同で、成績順に分けられる。 数学もそうで、柳くんは隣の教室に向かって行ってしまった。 1組の生徒が教室に入ってきて、僕も席を移動して、そこでふと隣の席の子の机が視界に入った。 「教科書忘れちゃった?」 声を掛けると彼は少し驚いてそして頷いた。 林宮涼香くん。 噂で聞く通り、すっごくきれいな子だ。 机を寄せて教科書を開いてみせた。 「ありがとう」 「ううん。そうだ涼香くんって甘いもの好き?」 そう話しかけると彼は困ったような顔をする。 「まぁ……それなりに」 「パフェとパンケーキだったらどっちが好き?」 「? ……パンケーキ」 「涼香くんはパンケーキ派か。いいよねぇ、ふわふわで甘くて」 想像を膨らませているとちょうどチャイムが鳴り、先生も教室に入ってきた。 結局どちらにするか決めきれないまま授業が始まってしまった。 週末に柳くんと出かけることに決まったのはつい昨日のことだった。 『彼氏、家に呼ぶから、どこかで遊んできて』 そんな風に妹に面と向かって言われたから。 兄として妹の邪魔をしたくない気持ちはある。 だから素直に頷いたけれど。 友達を呼ぶ時はこんな風に邪魔者にされることもなかったのに。 それが、どうやら恋人となると話は違うらしい。 恋人かぁ。 僕には縁の無いことだ。 高校生になった今まで出来たこともなければ、好きという気持ちを抱いたこともないかもしれない。 小春のように中学生で既に恋愛をしている子もいる。 比べてしまうと少しだけ焦らなくも無いけど。 けど、やっぱり友達の好きとの違いが僕にはよくわからない。 今一番好きな人を思い浮かべてみると、浮かんでくるのは柳くんだ。 かっこよくて優しくて、誰よりも気が合う。 そうだ、パフェ……パンケーキ。 柳くんはどっちが好きだろう? そんな他愛もない、ぐるぐる巡る思考は、授業の間中ずっと続いた。

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