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関係ない話《剣介》
「で、何をんなに悩んでんだよ」
「え? 別に悩んでなんて」
「ぼーっとして俺の話、聞いてねぇだろうが」
昼休み。
一緒に飯を食いながらもどこか早苗が浮ついているのが気にかかった。
思えば朝からずっとこの調子だ。
「なんであれ吐いたら、楽になんだろ」
「それがね……」
早苗は手にしていた卵サンドを置いて話し始めた。
「パフェか、パンケーキか……それが問題なんだよ」
突拍子もなく真剣な顔をして言うものだから、つい吹き出してしまった。
「あ、笑った!」
「だって、おめぇ……深刻な顔してるから何事かと思ったら」
あぁ、心配して損した。
早苗のことだから、そんなことだろうとは思ったが。
それでも何かあったんじゃないかと思ってしまった。
「笑い事じゃ無いんだよ、柳くん! 限定パフェは外せないけど、1人じゃ食べ切れないかもでしょ? パンケーキもふわふわで美味しいけど、それだけでお腹いっぱいになっちゃいそう……」
追い打ちをかけるように眉間にシワを寄せて唸る早苗に、笑い声を抑えられない。
そんな俺を見て「もう」とちょっとだけふてくされる早苗。
ひとしきり笑って、やっとのことで落ち着いて、滲んできた涙を手で拭った。
「そんな悩まなくても、俺とお前で半分ずつ食べるんなら、どっちもいけんじゃね?」
「……柳くんもしかして天才ですか」
「おー、今頃気付いたかよ」
素直に表情を緩ませる早苗。
ほんとかわいいやつ。
「楽しみだね! もしおいしかったら、小春も彼氏くんとデートに行こっかなって話してたよ」
「デート、な」
「僕たちには関係ない話だね」
呑気な呑気な笑顔に少しだけ胸がちくっとする。
面と向かって友達だと、俺と早苗じゃデートにならないのだと言われてるようなもんだ。
そんなの当たり前だけど。
当たり前のことだけど。
「……そうだな。俺達には関係ねぇ話だ」
高2の初夏。
近付けば近付くほど、想いは実らないのだと思い知らされるような感覚になった。
それでも側に居られないよかいいんだと、言い聞かせるようにそう繰り返した。
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