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水族館1《涼香》
かすみさんとの一件があった数日後。
一学期の期末テストを控え、放課後、図書室で勉強をしていた。
いつもなら家に戻って一人机に向かう。
そう、いつもなら。
「ね、涼香ちゃんここって」
向かいに座っている龍太郎がノートの一文を指し示す。
自分の勉強の手を止めて覗き込んだ。
「これは、……ってノートちゃんと取ってなかっただろ」
意外にもきれいな字で整えて書かれているノートには、空白がちらほらある。
「あら、そうかも。いやぁ、古文の先生の声眠くならない?」
仕方なくノートを貸すと龍太郎は「ありがと」とにっこり微笑んだ。
吉良が勉強に集中するからとさっさと帰っていき、薫は藤川と約束があるからと彼女の家に行ってしまった。
ここ最近は軽音の練習に付き合ったり、4人でおしゃべりしたりと残っていたのもあり、なんとなく足が重かった。
そんな帰り際に龍太郎に勉強を教えてと頼まれ、仕方なく彼と勉強する流れになった。
龍太郎にノートを貸し、しばらく自分の勉強に集中した。
流石に図書室なのもあり沈黙が流れる。
あれから龍太郎との関係は特に変わること無く続いていた。
それに安心しつつも、拒みきれない自分にうんざりしていた。
数分後。沈黙が続き勉強に集中しているのかと思いきや、視界に移った龍太郎は何やらスマホを触って文字を打ち込んでいた。
ふと顔を上げた彼と目が合う。
龍太郎はちょんちょんとスマホを指し示してくる。
まるで俺にも見ろと言うかのように。
仕方なく自分のスマホを取り出すと、4人でのグループに通知がついていた。
『テスト終わった次の土曜、4人で遊びに行こ!』
『いいな!遊び行きたーい!!』
『ヒロちゃんが車出してくれるからA市行こっかなって』
そんな龍太郎と薫のやり取り。
4人ということは俺も?
「どうかな?」
龍太郎が抑えた声で聞いてくる。
少し悩んで頷くと龍太郎は、くしゃっと微笑んでガッツポーズを取って喜んでみせた。
『涼香ちゃんもOKだって!吉良はどうする?』
『僕も行く おやつは300円までね』
『遠足かよ笑』
『じゃあ当日までに行きたい場所考えとくよーに!!』
4人で遊びに。
思えば友達と遊びに行くのも随分久々な気がする。
ほんの少しこそばゆさを覚え、ちらりと龍太郎を見た。
心底嬉しそうに笑う彼の、屈託のない微笑みに俺まで顔がにやけそうになる。
誤魔化すように頬杖をついて、ノートに視線を下ろした。
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