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水族館3《龍太郎》
「あ、海見えてきた!」
車を走らせること1時間ほど。
道路から水平線が見え、薫が真っ先に声をあげた。
そこから数分でお目当ての水族館に着いた。
中学の時に来て以来だろうか。
久々なのもありかなりわくわくしていた。
何よりこのメンバーで来られたのが嬉しい。
涼香ちゃんと来れたことが。
車から降りるとどことなく潮風の香りを感じる。
やはり少し調子の悪そうな涼香ちゃんの隣に並んで、入口へ向かって歩いた。
「酔っちゃった? 平気?」
青ざめた顔で、引きつった表情の涼香ちゃん。
心配で声を掛けるが、彼はただ首を振るだけだった。
「……平気。行こう」
それでも、そう言われたら引き止めることも出来ず、5人でチケットを買って館内に入った。
薄暗くひんやりと空調が効いている。
入ってすぐ、早速水槽が現れ、大きなウミガメが悠々と泳いでいるのが見えた。
淡くライトアップされて水がきらめいて見える。
大きな水槽の高いところを泳ぐ亀の姿は空を飛んでいるようだ。
「な、龍太郎写真撮って!」
はしゃぐ薫に腕を引かれ、水槽の前で写真を撮った。
夏休み前とはいえ休日なのもあり、子供連れのお客さんも多く賑わっている。
そんな人々に混じり順路通りに進むと、これまた巨大な水槽に多種多様な魚が泳いでいた。
魚群を作る小魚に、タイや小ぶりなサメなんかもいる。
吉良と薫は水槽の底、砂の上でじっとしている魚を指さして、何やら話しては写真に収めていた。
つい夢中で魚を見ていたが、後ろで静かに水槽を見上げる涼香ちゃんを振り返った。
楽しんでくれてるかなと期待していたが、彼はどこか泣きそうな表情をしていた。
「涼香ちゃん……」
やっぱりそう。
何となく思っていたけど、どこか辛そうだ。
きっとそうなんだ。
彼の近くに寄り、ぎゅっと固く握りしめる手を包みこむように握った。
涼香ちゃんは、はっとしたように俺を見た。
恨めしそうな瞳が俺を映す。
「……」
力を緩めて、恐る恐る涼香ちゃんは俺の手を握った。
「龍太郎さん、薫たち水中トンネルまで行っちゃったよ」
声を掛けてきた吉良の視線が涼香ちゃんに向かい、そして握られた手に向かった。
「先、行っててよ。俺達ゆっくり見ていくから」
吉良はまた涼香ちゃんを見て、そして肩をすくめてあたりを見回した。
「あっちに座れる場所あるからそこ行こう。涼香、無理しないで」
流石に吉良も察したのか心配そうに涼香ちゃんを覗き込む。
吉良が示したベンチに2人で腰掛けた。
「飲み物買ってくるから少し待っててね」
吉良が歩いていき、人混みの中、俺達だけが切り離された様な感覚になる。
涼香ちゃんは、やはりぼんやりとして思い詰めた表情で目を伏せていた。
ベンチの上に置かれた手。
そこにまた手のひらを重ねた。
ひんやりとした指先がもぞもぞと動き、控えめに俺の指を掴んだ。
「落ち着くまで側にいるよ」
そう何気なく声を掛けた。
少しでも安心できたならいいなと思った。
涼香ちゃんは顔を上げて俺を見た。
少し驚いたような、やっぱりどこか泣きそうなそんな顔。
大丈夫。大丈夫。俺がいるよ。
そう心のなかで唱えながら、静かに指先で彼の手を撫でた。
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