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水族館6《涼香》

アナウンスが鳴り、イルカショーを観に行った。 飼育員の指示に従いイルカが宙を舞い、水しぶきが跳ねる。 時間が合い、アザラシやペンギンの食事タイムにも立ち会えた。 手を振り芸をする姿に子どもたちの歓声が上がる。 それに混ざり薫も声を上げていた。 水族館をじっくりと楽しみ、昼食は車で数分離れたところにある食堂にやって来た。 港町が近いのもあり海鮮丼の美味しい店らしい。 あんなに魚を見た後に魚を食べるのか、と思いつつも美味しそうなのも事実だった。 「おじさんが奢るから好きなの頼みなさーい」 「え? いいの、本当に?」 「いいのいいの。男子高校生に奢れるなら本望ってやつよ」 「ヒロちゃん言い方言い方」 ヒロさんの言葉に甘え、各々海鮮丼を注文した。 「久々に来たのもあるけど、楽しかったね」 注文を待つ間、吉良がそう切り出した。 「やっぱペンギンかわいかったなぁ」 「薫ずっと見てたものね」 「一匹だけ胸張ったまま固まってんだもん。あいつはきっと大物になるね」 薫と吉良が話しているのを聞いて思わず笑みが漏れる。 「涼香ちゃんは楽しめた?」 ヒロさんに優しげに微笑み掛けられ、素直に頷いた。 「それはよかった」 そう言ってヒロさんは、龍太郎とよく似たタレ目がちな瞳を細めて微笑んだ。 彼と会うのは今日が初めてだったが、人の良さそうな雰囲気で好感を持てた。 「おじさんはなぁ、高校友達少なかったから、お前たちが眩しいよ」 「ヒロちゃんほんとにおっさんみたいなこと言うじゃん」 「なんだよー。お前たちもすーぐこうなるんだからな。10代なんて一瞬なんだぞ」 「また言ってる」 ヒロさんと話しながら、おかしそうに笑う龍太郎。 またすぐ隣に座っている彼の、からからと笑う声が心地良く響いた。

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