206 / 229

寄り道1《龍太郎》

帰りの車内は行きと違って静かだった。 疲れたのか薫が寝てしまったのもある。カーステレオから一昔前の流行曲だけが小さく流れていた。 道案内の関係でまた助手席に座っていて、過ぎていく景色をただ眺めた。 山中の道を越えたあたりで、雲行きが怪しくなり雨がこぼれ始めた。 次第に雨脚は強まり、本格的に降り始める。 雨雲に覆われた灰色の町並み。 車内のクーラーが肌寒く感じる。 明日は一日バンド練習だから、今日は早めの解散だ。 もう少し一緒にいられたらよかったんだけどな。 「そこ、曲がって」 薫の家が見えてくる。 「薫~、起きてー!」 車が止まり、後部座席を振り返る。 薫は隣に座る吉良に揺さぶられて目を覚ました。 「じゃあまた明日ー。ヒロちゃんもまたねー!」 ぼんやりしつつもそう言って帰っていく薫。 続いて吉良の家に向かい、彼もまたお礼を言って車を降りた。 最後に涼香ちゃんを送っていく。 雨脚は弱まらない。 「次の角曲がって」 そしたらすぐ彼の家だ。 2階建ての大きな建物が見えてくる。 門の前で、ゆっくりと車が停まった。 もう彼との時間も終わりかとどうしてもさみしくなる。 「涼香ちゃん着いたよ」 それでも楽しい1日だったなと思いを馳せながら振り返り、奥の列の座席に座る彼に声を掛けた。 「……」 聞こえるのは雨音だけで声は返ってこない。 遠巻きからも、俯く彼のどこか暗い雰囲気がわかった。 ヒロちゃんが運転席から操作してスライドドアが開く。 激しい雨の打ち付ける音がより大きくなった。 涼香ちゃんははっとしたように開いたドアから外を見た。 「涼香ちゃん?」 何かを堪えるように身体に力を入れ、自分の腕を握る。 彼のそんな姿に突き動かされるように、助手席を降りた。 冷たい雨が頬を肩を濡らす。 すぐ彼の横に乗り込むと、涼香ちゃんはどこか泣きそうな顔で俺を見た。 座席の上、握りしめられた手に触れる。 酷く冷たく、微かに震えている。 「大丈夫だよ」 なぜこんなに苦しそうなんだろう。 安心させるように微笑みながら繰り返した。 「大丈夫。ね、ちょっとうちに寄ってかない?」 彼はやはり何かを堪えるように眉間にシワを寄せて、力なく頷いた。

ともだちにシェアしよう!