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寄り道4《龍太郎》
先輩……桃生凌世 さんは、俺の憧れだった。
中学に上がってすぐ声を掛けられて、2コ上の彼と話すようになった。
正直素行の悪い彼は生徒からも教師からも怖がられていた。
それでも話してみるとそんな印象とは、全然かけ離れていた。
笑いのツボが浅く、人懐っこくて、優しい人だった。
仲間には忠実で信頼できる人だった。
なんでかえらく気に入られて、かわいがって貰っていた。
夏頃には同世代の先輩よりも、俺といる時間のほうが長くなった。
服装も音楽の趣味も、知らず知らず影響されていた。
それで、ある時ふと気づいてしまった。
俺は彼が好きなんだって。
それは先輩としてだけじゃなく、友達としてでもなく、もっとドロドロとした好きだった。
気付かない振りをしようとした。
気付いたところで、どうにも出来ないことだった。
だけど心は痛むものだ。
凌世さんには長く付き合っている彼女さんがいた。
俺のことも弟みたいにかわいがってくれて、美人でいい人だった。
凌世さんはその彼女一筋。
近くにいた俺には、それが嫌というほどわかった。
俺がもし女だったなら、チャンスもあったのかな?
俺がせめて少女のような顔つきなら。
想いを伝えることも消すことも出来なかった。
だからといって彼の側を離れるのも嫌だった。
自分の気持ちに気付いてしまった夏から、凌世さんが卒業するまでずっと、そんな誰にも言えない悩みを抱えていた。
毎日毎日苦しくてたまらなかった。
なんで俺は男なんだろう。
彼に好かれる土俵にすら上がれないんだろう。
3月に凌世さんは卒業していった。
残ったのは、虚しさとどうにもできないアイデンティティへの絶望だけだった。
悩んだ末、俺は思い込もうとした。
きっと男を好きになんかなったのは気の迷いだと。
俺は女の子も好きだったし、そうなるしか無いんだと決めた。
先輩のいない寂しさを埋めるように、色んな子と遊ぶようになった。
同時に何人かと付き合ったこともあったし、体だけの関係の子もいた。
中2はずっとそんな調子で、たくさんの女の子を泣かせた。
俺は弱くてガキで自分のことを認めるのすら怖かった。
人の優しさに縋り付いて、求めるばかりで、本当どうしようもなかった。
そんな荒れた俺を家族も友達も心配してくれてた。
けど、自分ではどうにもできないまま、ずるずる関係を続けていた。
「中3に上がった頃、ふと先輩に貸してたこの本を開いたんだ」
そしてこの写真に初めて気がついた。
『お前の笑顔大好きだったよ
お前もいい人と巡り会えるように』
多分だけど彼は気付いていたんだと思う。
俺の気持ちに。
目を逸らしていた現実を突きつけられた気がした。
「それでやっと自分を苦しめるのも目をそらすのもやめて、受け入れようと思えたんだ」
恐る恐る顔を上げると、涼香ちゃんは真剣に俺の話を聞いてくれていた。
「たくさん迷惑を掛けたし、人を傷つけてきた。俺には涼香ちゃんを好きでいる資格なんてないのかもしれない」
こんな話わざわざしなくても良かったのかも知れない。
もうすっかり過去のことだ。
だけど。
「だけど、それでも好きでいたいんだ。俺は俺の素直な気持ちのまま、涼香ちゃんを好きでいたい」
もう逃げたくない。
目を逸らしたくもない。
「ごめんね、長々と自分語りしちゃって。けど、俺のこと知ってほしかった。こんなんエゴでしかないけどさ。いきなりごめんね、疲れてるのにほんとごめん」
「……謝らなくていい。それに」
涼香ちゃんは、ぼそぼそとそれでも真っ直ぐな言葉をくれる。
「それに資格とか関係ない、と思う。人を好きでいることに」
あぁ、どうしよう、やっぱりこの人が好きだ。
「ただ、俺も……半分冗談なんじゃないかって、からかわれてるだけなんじゃないかって思ってたのは事実だから」
「本気だよ。下手したら凌世さんの時以上に……大好きで、涼香ちゃんに笑顔でいて欲しいって思ってる」
真っ直ぐ彼の目を見ると、彼もまた逸らさずに俺の目を見つめ返した。
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