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寄り道6《涼香》
「少しは気分も落ち着いた?」
龍太郎に言われて、そう言えば気分が沈んでいたのだと思い出す。
いつの間にかすっかりと気がそれていた。
「まだ落ち着かなかったら手、握ってようか?」
グラスを机に置き、床に座り直すと龍太郎は俺に手を伸ばす。
大きくて節ばった手。
温かくて優しい手。
その肌の温もりは、忘れていた安心を俺にくれる。
だめだ。
これ以上踏み込んだら。
応えられないなら、やめるべきだ。
「……」
雨が屋根に打ち付ける。
仄暗い部屋は胸をざわつかせる。
そっと伸ばした手が彼の手のひらに近づく。
ダメなのに引力でもあるみたいに、引かれてしまう。
「大丈夫。ただこうしていたいだけだから。……勘違いしたり、しないから」
柔らかい微笑み。
龍太郎は迷っている俺の手を優しく握った。
じんわりと熱が伝わってくる。
それだけでどこか張り詰めていた心が解れる。
『すず』
違う。
別物だとわかっている。
なのになぜ、重ねてしまうんだろう。
「涼香ちゃん、もっと近くに来る?」
優しい優しい声に、笑顔に胸が締め付けられる。
「大丈夫、襲ったりしないよ」
手を引かれ、流されるままに彼のすぐ横に座り直した。
肩が触れ合い、背中を撫でられる。
何も言わずに、そうして慰めてくれる。
「何も、聞かないんだな……?」
今日は散々迷惑をかけてしまった。
今だって家に帰れずにこうして気を遣わせている。
「涼香ちゃんが話したかったら聞くし、そうじゃないなら良いんだよ。無理して話すこと無い」
握られたままの手。
力を込めると握り返してくれる。
聞いておいてわからなかった。
話す?
何を?
思えば、この苦しみを誰にも話そうと思ったことが無かった。
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