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寄り道8《涼香》

「秋良? なに突っ立ってんの」 「な、なんでもないの! 江、ほら行こ!!」 気まずそうに扉を閉めて、また階段を駆け下りていく音が聞こえた。 あまりに突然のことに驚いて固まっていたが、慌てて至近距離に顔を近づけていた龍太郎を突き放した。 雰囲気に飲まれてまたやってしまった。 また、キスしそうに……。 自覚すると一気に顔が熱くなった。 「ごめん涼香ちゃん。びっくりしたよね」 びっくりもなにも、俺の勘違いじゃなければ彼女は龍太郎の友人だ。 同じ学校な上に、あんな口の軽そうな女子にとんでもないところを見られてしまった。 「というか、なんであいつがお前の家に……」 「あー、幼なじみでさ、休みの日とかよく遊ぶんだよね」 仲良さそうなのは知っていたが、勝手に部屋に入ってくるほどとは思わなかった。 あんなにもはっきりと見られたのに、龍太郎は動揺するでもなくへらへら笑っている。 「涼香ちゃんも遊んでく? 最近はみんなでゲームで戦ってて」 「いい。帰る」 「そう? じゃあ送ってくよ」 立ち上がると龍太郎も続いた。 「もう、平気だから……いい」 顔をまともに見られずに目を伏せながら言った。 幼なじみだって来ているんだ。 これ以上迷惑を掛ける前に帰ろう。 これ以上、空気に流されたりしないうちに。 今日はずっと彼に甘えてしまったような気がしていたたまれない。 「もう少し一緒にいたくて……ダメ?」 服の裾を掴まれる。 見ると本当にさみしげにしている。 1階からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。 きっともう彼らで先に始めてしまったのだろう。 それでも龍太郎は俺を優先している。 あぁ、だめだ。 そんな顔。 「……好きに、すれば」 ぼそりと呟くとそれだけで彼は、ぱっと顔を綻ばせる。 あぁ、本当に。 こいつの一喜一憂に乱される。 「じゃあ、行こっか涼香ちゃん」 差し出される手を少し迷って、それでも握ってしまう。 温かくて、それだけで満たされる。 温もりにすがりつきたい気持ちを誤魔化すのに必死だった。

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