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寄り道9《涼香》

雨上がりの帰り道。 日が落ちてあたりは暗い。 だから、手を繋いだまま歩いた。 「今度はさ、2人でお出かけしない?」 2人で。 龍太郎と2人で……。 「……暇、だったら」 「うん、暇だったら」 曖昧な返事にも心底嬉しそうだ。 これ以上、期待させるのはきっと酷なことだ。 わかっているのに。 決めきれないまま、ただこの居心地の良さに引かれている自分がいる。 不安で苦しい時、ずっと側にいてくれた。 気を遣って優しくして、小さなことで喜んで――。 この間だってわざわざ泊まらせてくれた。 龍太郎に声を掛けられたあの日から。 毎日が色づいてきらめいてしまった。 そんなのいらないと思っていたのに。 俺には関係なくて、手に入らなくていいと思っていたのに。 繋がれた手の温もりで、冷えていた体も熱を持ち始める。 こんな風になるくらいなら、気付かなければよかった。 受験の日に会った彼だと。 人の輪の心地よさも。 まっすぐと愛を向けられる安心感も。 彼が軟派なだけじゃなく、悩んで苦しんで、それでも自分自身と向き合って、また人を好きになったことなんて。 気付かなければよかった。 知らなければよかった。 「涼香ちゃん、じゃあ、また学校でね」 何も形として手に入っていないのに。 名前のない関係なのに。 それでもいつか彼が離れて行ってしまうんじゃないかって恐怖を漠然と感じる。 家の門の前で、振り返る彼と向き合った。 灯りの下、彼のさみしげな瞳と目が合った。 形作ってしまったら、きっともっと不安になるのかな。 離れがたさを飲み込んで手を離そうとすると、余計に強く握られる。 不思議でまた見つめると、もう一方の手をとられた。 両手をぎゅっと握り、龍太郎は顔を綻ばせる。 「涼香ちゃんありがとう」 「い、いきなりなんだよ」 「今日こうして遊べたことも、側にいさせてくれたことも。不安を口にしてくれたことも……全部全部、言い切れないくらいありがとう」 龍太郎は目を細めてくしゃりと微笑む。 「そんな……迷惑かけてばっかりで」 「変だよね。迷惑かけてくれることですら嬉しいの」 笑って見せる彼に、呆れてしまう。 どうしようもない奴。 こんなだから、俺は。 「何よりも好きでいさせてくれて、ありがとう」 俺は……。 「じゃあ、ゆっくり休んでね。また月曜ね?」 頷くともう一度ぎゅーっと強く手を握られた。 そしてゆっくりと離すと、龍太郎は来た道を引き返していく。 途中でこちらに向き直り、手を振ってくる。 小さく振り返すとそれだけで龍太郎は嬉しそうにする。 角を曲がって姿が見えなくなっても、まだぼんやりと手のひらに残る温もりに、気持ちが揺らいでいた。

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