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幼なじみ《江》

週末。 りゅうの家に集まるのは小さい頃からだ。 家が近所なのもあるし、家族ぐるみで仲が良い。 俺と秋良とりゅうは特に年が近いのもあってよく遊ぶ仲だ。 そこに秋良の弟やりゅうの妹も加わることもある。 ヒロちゃんもそんな俺達をかわいがってよく出掛けに連れて行ってくれる。 そんな具合の近い距離感だから余計にだろうか。 「りゅうのやつ今回はめっちゃ本気っぽいね」 「江もそう思う? いやぁ本当にさ」 秋良とゲームしながらも、気付けば幼なじみの恋事情に話題は移っていた。 「はぁでもまさか、部屋に連れ込んで……ちゅーまでしてるなんて……」 秋良がぼんやりしてコントローラーを離した隙に、彼女のキャラを攻撃し撃墜させた。 って、ゲームどころじゃない。 「キ、キス!? まじで?」 「ほらさっき部屋に行った時……見ちゃったの。もう、どうしよう」 顔を覆って悶える秋良。 この間、朝の電車で会った時も仲良さそうだとは思ったけれど。 もうそんな関係になっているなんて。 コントローラーを置いて秋良に向き直る。 「先週お泊りしてたって話でももうびっくりしたのに。りゅうのやつ、手はやすぎじゃない?」 「ね、ほんと……」 幼なじみとしては驚き半分、心配半分。 りゅうは昔から人懐っこいし、悪いやつじゃないし、何よりもモテる方だ。 それは差し置いてだ。 今回は男同士の話なわけで。 そりゃ秋良だってショックを受けるわけだ。 俺も彼女もりゅうのことを応援しているのは事実だ。 だけど実際に目にすると動揺もないわけじゃない。 特に秋良は、中学の時にりゅうに告白したことがある。 時間は経っているとは言え、少なからずそういう意味でも傷ついていないか心配だった。 日頃、明るすぎるくらい明るく、うるさすぎるくらいうるさい彼女が、こんなにもうなだれて、頬を染めて興奮気味に目を見開いて……? 「あ、秋良さん大丈夫?」 「大丈夫じゃないわよ! なんなのよあれ……私、男同士がこんなにも美しく見えるなんて知らなかった! よりによって幼なじみのいちゃいちゃしてるとこ見ちゃったのに。気まずいより、なんか……なんか胸がときめいちゃってるの!!」 興奮気味に語りだす秋良。 あぁ、この子だめかもしれない。 「どうしよう私、何が何でも付き合って欲しい」 と思えば、深刻な顔をして頭を抱えてみせる。 「ちょっと落ち着こうか秋良さん」 「落ち着いてられるかー!」 「ただいまー」 秋良が乱心して叫ぶのと同時にりゅうが帰ってきた。 「おかえり、りゅう」 「うん……はぁ」 こちらはこちらで魂が抜けたような顔をして、どかっとソファに腰掛けた。 「どうしたのりゅう。何かあった?」 想い人のあの美人さんを家まで送り届けてきただけのはずだ。 まさか何かやらかしたのかと秋良と2人で心配になる。 「いや、まじで涼香ちゃんのこと好き過ぎて」 ぼそぼそとりゅうは続ける。 「まじで幸せすぎて、どうにかなっちゃいそう」 天井を見上げながらそう言うりゅう。 なんだのろけかと呆れながら、やっぱり少しだけ少しだけ胸に引っかかる。 人を本気で好きになるって、きっとすごいことなんだろうなって。 こんなへなへなになっちゃうくらい、幸せでたまらないですって顔が出来るくらいなのだから。 「ほらね、やっぱりなんでもやってみなくちゃ。始めてみなくちゃ結果なんてわからないんだよ」 秋良は、りゅうを見上げてそんな風に言って笑う。 「龍太郎なら、本当にあの高嶺の花の涼香くんを落としちゃうかもね」 「そうだといいけどな……ほんとにそうなったら、俺どうしよ~!」 「わっ!」 興奮気味のりゅうに抱きつかれ、すりつかれる。 「そうなったらじゃなく、そうするんでしょ?」 「秋良……」 「押してダメならさらに押す! 全力でアタックあるのーみ!」 「何それ、めちゃくちゃ」 理屈も何も無い感情論。 だけど、そんな秋良の言葉が時々すごく胸に刺さる。 それはきっとりゅうも、俺もだ。 人を好きになる。 その正解を俺はまだ知らない。 けど知るために、一歩踏み出すのも悪くないんじゃないかって。 そんな小さな光に手を伸ばしてみたくなった。

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