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文化祭準備1《江》

期末試験も無事に終わり、一気に学校は学祭ムードになった。 美術部での展示用の絵は、春から着手していたのもあり一段落ついていて、放課後はクラス展示の準備も手伝っていた。 中学の時もそうだったが絵が描けるとこういう時、頼りにされて少しだけ嬉しい。 「樺島」 友達とわいわいしながらの作業を楽しんでいると、ふと松谷さんが教室のドアから顔を覗かせた。 「松谷さん、どうしたの?」 「いや、調理室行くついでに寄ってみた」 わざわざ来てくれたことが嬉しくて、彼を見上げながらつい笑みが漏れた。 「調理室? あ、3年生は模擬店するんだっけ」 「うん。うちは焼きそば」 「焼きそば! 屋台の焼きそば大好き」 ソースの香りを想像するだけでお腹が空いてくる。 なにより屋台に立ち、焼きそばを手渡す松谷さんを想像するとすごく似合っている。 似合ってはいる、けど。 「けど……松谷さん料理大丈夫?」 「まぁ、大丈夫じゃないな」 肩をすくめてみせる彼につい笑ってしまう。 不器用で細かい作業が苦手な松谷さんは料理が苦手だ。 「俺は味見係」 ちょっとだけ、怖いもの見たさで松谷さんお手製の焼きそばを食べてみたい気もするけど。 「樺島のとこは何するんだ?」 「あ、うちはね脱出ゲームだよ。謎解きとかけっこう拘ってて」 「いいな、面白そうだ」 「ぜひやりに来てね……って時間大丈夫?」 いくらでも話していたい気持ちはあるけれど、これから試作でもするならいつまでも引き止めるわけにはいかない。 「あぁ……そろそろいく。なぁ」 「うん?」 「終わったら一緒に帰ろう」 ただ本当についでに顔を出してくれたんだと思ってたけど、もしかしてわざわざ誘いに来てくれたのかな? 一緒に帰ろうって。 だとしたら、あぁ。 嬉しくて嬉しくて顔が緩むのを隠せない。 「うん! あ、このあと美術部の方にも少し顔出すから、終わる時間わかったら連絡するね!」 優しく微笑む松谷さんを見上げながら、ふと秋良の言葉が思い浮かぶ。 『やっぱりなんでもやってみなくちゃ。始めてみなくちゃ結果なんてわからないんだよ』 怖さが無いと言えば嘘になる。 一歩踏み出して、そして関係が変わってしまったら今には戻れなくなるかも。 「じゃあ、またな」 松谷さんを見送りながら、その大きい背中を見つめながら、胸を締め付ける何かを感じる。 その感情に名前をつけるのをためらいながらも、名付けてみたい気もする。 俺にはりゅうほどの勇気も屈託の無さもないけれど、それでも。 それでも俺は――。 開いた窓から風が吹いてくる。 すっかり夏らしい熱を持った空気が髪を揺らした。

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