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文化祭準備2《剣介》

「じゃあね、早苗くん」 「うん! バイバイ」 すっかり日が傾いた部活終わり。 昇降口で待ち合わせていた早苗の元に向かうと、ちょうどクラスの女子に手を振っている姿が見えた。 女子たちに笑顔を向ける早苗。 なんてことはない。 今は文化祭前で、クラスの準備を手伝っているのだから自然と仲も深まるのだろう。 そういうもんだと理解は出来る。 出来るが、頭ではわかっていても、もやもやと胸を締め付ける感覚に襲われ、足を止めた。 わかってる。 俺が勝手にあいつに想いを寄せてるだけだと。 叶わない恋をしてるだけだと。 こんな感情、何度だって味わってきたじゃねぇか。 「あ、柳くん!」 俺の存在に気付いた早苗が駆け寄ってくる。 「部活お疲れ様」 ふにゃりとした柔らかな微笑みを向けられて、それだけで、まぁいいかと思ってしまう。 「おう、帰るべ」 靴を履き替えて外に出て、早苗と一緒に帰路につく。 こうして2人での帰り道も当たり前になりつつある。 それでもそれはただの友達として。 そんなのわかりきっていることだ。 いつか、こいつにも彼女なんてできて、自然と距離も離れて……。 あぁ、だめだ。 単なる妄想ですら耐えられそうもない。 「ね、やっぱりクレープは外せないよね」 「……なんの話だよ、いきなり」 憂鬱になる俺をよそに、早苗は呑気に笑っていた。 「ほら文化祭の模擬店。クレープにチュロス、あとねミルクティーもあるんだって」 色気の一つもない話題に、自分がばかばかしくなってしまう。 「喫茶店やるクラスもあるみたいでね、ケーキもあるかもね」 きらきらと目を輝かせて声を弾ませる早苗。 「さっきから甘いもんばっかじゃねぇか」 「あ、ばれた?」 無邪気に笑う早苗は本当に楽しみなのだろう。 色気より食い気って言葉がぴったりだ。 「ね、柳くん。一緒に回って食べ歩きしようね」 少しだけ体を寄せて、見上げてくる早苗。 いつも近くにいて、友達で。 だから、そこに特別な理由なんて無いのはわかってる。 「……おう。2日で全制覇すんぞ」 「うん!」 だけど、少しだけずるいなと思ってしまう。 変に意識しなければ俺だってもっとずっと楽に誘えるんだろうな、とか。 いちいち一喜一憂して、ちょっとしたことにも振り回されずにいられるんだろうなとか。 「そうだ、夏休みもお出かけしようね?」 早苗は何気なく言葉を続ける。 ずるいよな、まじで。 俺が勝手に好きになってるだけだけど。 早苗は、俺にとって少しばかり勇気のいることをさらっとやってのける。 「駅前のかき氷屋さん、夏限定メニューが始まっててね」 「また甘いもんだな」 「あ、確かに。けどね、練乳氷にごろっと果肉のいちごシロップがたーっぷりかかってるんだよ」 「……そりゃ、うまそうだな」 「でしょ?」 いつもの帰り道。 なんてことのない会話。 積み重なっていく毎日に比例するように想いも膨らんでいく。 一生叶うことのない恋だと知っていても、どうしようもなく膨らんでいく。 「楽しみだなぁ」 そんな俺の気なんて知るわけもなく、早苗は呑気に呑気に微笑んだ。

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