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文化祭2《早苗》

真っ先に食べたチュロスは噂通りの美味しさだった。 1本まるまる食べたいくらいだったけれど、他のものも一緒に食べる為に柳くんと半分こ。 最後の一口を譲ってくれた柳くんは、やっぱり優しい。 「次は松谷さんとこの焼きそば買いに行こう」 外の模擬店は昼時なのもあり、かなり人が多かった。 人混みの中を歩きながら、ついきょろきょろしてしまう。 スイーツ系がいいなと思ってたけどソースの香ばしい香りやお肉の焼ける匂いを嗅ぐと、食欲が刺激される。 「おい、ふらふらしてんな」 柳くんに手を捕まれ、引き寄せられる。 「わ、ごめん」 「ほらこっちだ」 手を引かれ雑踏を歩いた。 こうして人の多いところにいると、余計に柳くんの身長の大きさが際立つ気がする。 大きくて少しだけ目つきが悪くて怖がられがちだけど、本当はとっても優しい。 昔からこうして、ずっと僕を守ってくれていた。 目的の屋台に着き、列に並び順番が来るのを待った。 「ね、中学のときも一緒に回ったよね」 「ん? そうだな」 「去年も」 「おう」 「来年も一緒に行こうね」 少し驚いて、そして大好きな柳くんの笑顔。 「当たり前だろ」 ねぇ、柳くんがいてくれて良かったなって、何度だって思うんだ。 中学で声を掛けてくれた時からずっとずっと。 「お、剣介来てくれたのか」 前に立っていたお客さんがいなくなり、松谷さんがすぐ僕達の存在に気が付いた。 2人で食べるように1パックだけ注文すると、おまけにと松谷さんがジュースを奢ってくれた。 柳くんだけじゃなく僕にも。 柳くんが大好きなのもわかるくらいに優しい先輩だ。 「松谷さん来たよー……って、早苗さん!」 「あ、樺島くん!」 焼きそばが出来上がるのを待っていると、ふわふわの癖っ毛に眼鏡を掛けた1年生の樺島くんがやってきた。 「会えて嬉しいです! あ、うちのクラスで脱出ゲームやってるんでぜひやりに来てください! あと美術部の展示も」 「絵、出来たんだね?」 「はい、お陰様で」 元気な樺島くんについ頬が緩んだ。 彼とは柔道部に行った時に何度か顔を合わせたことがあった。 樺島くんは部員の絵を描くために見学に来てると話していた。 「樺島、もうちょっとしたらシフト終わるから」 「うん。それなら、待つ間に焼きそば食べようかな?」 「まいどあり。大盛りにするか?」 「ううん、他のも食べたいから」 仲良さげな松谷さんと樺島くん。 柔道部でもそうだったけど、仲のいい先輩と後輩って感じだ。 「焼きそば、お待ちどうさま」 出来立てのいい香りのする焼きそばを受け取り、2人に別れを告げる。 「早苗、行くぞ」 「はぁい」 手を振ると樺島くんも手を振り返してくれた。 「で、いつの間にあいつと仲良くなったんだよ」 2人で歩きながら、柳くんは少しだけ不機嫌な声で言う。 「あいつ? あ、樺島くん? ほら、柔道部に見学に行った時にお話して。すっごい絵が上手いんだよ。優しいし、いい子で……」 「ふぅん」 「柳くんの次くらいに?」 「んで、疑問形なんだよ」 「大丈夫。柳くんもいい子です」 「ふ、偉そうにしてっとお前の分も食っちまうぞ」 「そんな悪い子にはクレープわけてあげません」 軽口を言い合ってるうちに柳くんはいつもの調子に戻る。 心配しなくても、柳くん以上に仲良くなれる人なんて、そうそういないのに。 「俺は余裕で2個は食えるっての」 「僕だって」 「ほら、次並ぶぞ」 人混みも、待ち時間も柳くんとなら全部楽しめるんだから。 2人でなんてこと無い事を話しながら回る文化祭はとても楽しかった。

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