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文化祭3《一》

「良かったの? 断っちゃって」 シフトが終わり樺島と2人、展示を見て回ることにした。 「あぁ、航大(こうだい)とは明日見て回るから」 同じ元柔道部で仲のいい彼から誘われたのだが、樺島と先に約束していたからと断った。 後悔しないようにしたかった。 3年で高校生としての文化祭は今回が最後になるのだから。 「それに……俺は友達よりも恋人を優先したいから」 隣を歩く樺島は、そんな一言だけで顔を赤らめてしまう。 樺島とそういう関係になってまだ数日だった。 お互いに気恥ずかしさは抜けないが、それでもこの関係がしっくり来ているのも確かだ。 なにより彼が勇気を出して、気持ちを伝えてくれたことが嬉しかった。 「松谷さん……」 頬を染めて微笑む彼の、ふわりとした髪の毛を撫でる。 「こ~う! 松谷さん!」 ちょうど昇降口のあたりで名前を呼ばれ立ち止まった。 樺島の幼なじみの桜井と彼の友人の林宮、そしてあと2人は初めて会う顔だった。 包帯を巻き付け血糊をつけて仮装している小柄な男子と、男の俺からしても爽やかイケメンだなと思ってしまう男子生徒。 人目を引く4人組に周りの女子たちの視線が集まっていた。 「江達はこれからまわるの?」 「うん、そうだよ」 「あつあつなお2人におすすめスポットがあるよ」 「あつあつって、そ、そんなんじゃないから!」 「騙されたと思ってひんやり涼める2-2のお化け屋敷にぜひ」 冷やかされたのかと思ったが、桜井は単に自分のクラス展示の宣伝をしているだけのようだった。 けど、お化け屋敷か……いいかもな。 「それで薫さん、そんな血みどろなんだ」 「そゆこと。な、こうたん、2-1のメイド喫茶もおすすめだよ。ねっ、吉良?」 「そうだね。ケーキも提供してるし、甘いもの好きならぜひ」 「こうたん、それだけじゃない! かわいい女子とチェキも撮れる!」 そう言って薫と呼ばれた男子生徒は、手にしている何枚もの写真を自慢げに見せてきた。 どれもこれもメイド姿の女子とのツーショットだ。 「お前はいったん藤川に怒られろ」 「あはは、涼香ちゃんの言う通り。んじゃ、俺達行くから、またねー!」 賑やかな4人組が模擬店の方に出ていくのを見送り、俺と樺島は校内に入っていった。 「どうする? お化け屋敷行ってみる?」 樺島に聞かれ、少し悩んで頷いた。 個人的には得意な方では無いのだが、カップルでお化け屋敷というのは定番中の定番だろう。 何かというと樺島に面倒を掛けているから、こういう時くらいかっこいいところを見せたいと思わなくもない。 本格的なものってわけでもないし、きっと平気なはずだ。 意を決して桜井達のクラスのお化け屋敷へと向かっていった。

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