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文化祭7《涼香》
「ありがとう」
その一言が出てこない。
せめてそれくらいちゃんと言うべきだってわかっているのに。
あいつの顔を前にすると言葉が出てこない。
『幸せ感じちゃってる。涼香ちゃんを独り占めできるなんてさ』
なんて、いつもいつも大げさだ。
ほんと……俺なんかで無邪気に笑ったりして……。
「おかえり涼香」
「あぁ……」
「喜んでたでしょ? 龍太郎さん」
教室に戻ると、吉良も休憩から戻ってきたところなのか、声を掛けられた。
「まぁ、けど……こんな格好」
着て数時間経ち、慣れてきたとは言え、我ながらどうにかしている。
こんな目立つ服なんか着て。
女装なんかして。
「ほんと、思ってた以上に良く似合ってるね。今日の涼香、本当にかわいい」
吉良の女子に向けるようなきらきらした柔らかな微笑みに、思わず顔をしかめた。
「やめろ。寒気がする」
「ふふ、僕ともデートしてくれていいんだよ?」
「誰がするか」
軽口を叩く吉良をあしらいため息をつく。
「でも……一応ありがと。その、お陰で少しはあいつに返せたかも、恩を……」
「うん、どういたしまして」
とんだ恥をかいていはいるが、それでも、楽しめていないわけでもない。
「ほら、涼香よばれてるよ。行こう」
なによりあいつに喜んでもらえたならそれで充分だ。
なんて、ほんと……どうかしてる。
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