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文化祭8《龍太郎》
2日間にわたる文化祭ももう終わり間近。
軽音部のライブが体育館で行われていた。
俺達の出番は後半で、緊張感を抱いたままライブを眺めていた。
「けっこー人、入ってるし。めっちゃ緊張してきた」
どうやっても拭い去れない感覚に、また逃げ出したくなってきた。
正直これまで人前に立つことなんて滅多になかった。
寧ろ苦手な部類だ。
それがなにを間違ってこんな事になっているのか。
今更ながら自分の欲深さを呪いたくなってくる。
「大丈夫、大丈夫! 人多いほうが楽しいから」
俺の憂鬱もよそに薫はいつも通りで笑っていた。
「薫は絶対、心臓に毛生えてるよ」
「なにそれ。ちょっとキモくね」
「お待たせー。やっと抜けて来られたよ」
そうこうしているうちに、吉良がやってきた。
流石に先程まで着ていた執事服は脱いで制服姿だ。
「おー、吉良。お前らのクラスめっちゃだいせーきょーだったな」
「まぁね。涼香もちゃんと連れてきたから」
吉良が見ている方を見ると、こちらはメイド服のままの涼香ちゃん。
隣には秋良がいて、人混みの中で居心地悪そうだ。
本当に見に来てくれたんだと嬉しくなる。
そして、彼がいるなら逃げ出すわけにはいかないと気合いを入れ直した。
何組かのバンドの演奏が終わって、とうとう俺らの番になった。
先に3人でステージに上がる薫達。
学校中の憧れの的、吉良がいるだけあってこれまでのバンドよりも大きな歓声が上がった。
盛り上がった空気のまま、早速1曲目が始まる。
安定感のある杏ちゃんのドラム。
身体に響くような吉良のベース。
ギターの音に薫の生き生きとしたボーカル。
練習で何度も聞いてきたけれど、やっぱかっこいい。
続けて2曲終わり、会場もかなり盛り上がっている。
こんな状態でステージにあがるのは正直怖さしかない。
人前に出るのは苦手だし、気楽にやるくらいが好きだ。
今までのらりくらりと生きてきて、それでも……何でもやってみなきゃ結果はわからない。
「龍太郎、楽しもう!」
薫に手を引かれステージに上がった。
人の視線に、思っていたよりも明るいライトに、頭が真っ白になる。
「りゅーたろー!」
そんな俺の耳にも入るくらいの秋良の大きな声。
見ると手を振っていて、隣には江と松谷さんもいるのが見えた。
そしてなによりも涼香ちゃんがまっすぐと微笑みを浮かべながら、俺を見ていてくれた。
あぁ、ほんと。
ずるいよ、涼香ちゃん。
「それじゃあラスト一曲も盛り上がっていこー!」
薫の声に合わせて杏ちゃんのドラムが響く。
大丈夫。
涼香ちゃんにだけ届いてくれればいい。
涼香ちゃんにだけ伝われば、それでいい。
息を深く吸って、マイクに向かって声を出した。
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