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文化祭9《龍太郎》
頭は相変わらず真っ白で、だけど声はいつもより出てるかも。
ギターも練習を繰り返したのもあって、思ったよりいい感じだ。
薫の声に負けないくらい声を出す。
人気のある曲で、薫たちが選んだものだった。
だけど、涼香ちゃんへの気持ちを歌ったようなラブソングで。
どうせ歌うなら、ありったけの気持ちを込めて見ようって思った。
あとから思い出して、死ぬほど恥ずかしくなるかもしれない。
けどさ、それでもいいから。
どうにかして君に伝わったらいいなって、そう思ったんだ。
切なそうに目を伏せる横顔も。
すぐ照れて赤くなるところも。
優しくて、律儀で、主張は苦手で。
意外と甘いものが好きなとこも。
控えめにはにかむ姿も。
ずるいくらいに思わせぶりで、少しずつ心を開いてくれるところも――。
全部全部、あなたのすべてが大好きです。
そんな気持ちの1ミリでも届きますように。
こんな人の視線を集めて、慣れないことして……そんなときでも、俺は涼香ちゃんでいっぱいだから。
最後のフレーズを歌い終わって、あとはラストの演奏だけ。
やりきった気持ちで高揚する感覚は、確かに悪くないかもしれない。
曲が終わって拍手が聞こえる。
「ありがとうございましたー! 最後まで楽しんでってください!」
薫がマイクに向かって言うのを聞きながら、涼香ちゃんに視線を送る。
俺を見てくれていると、そう期待していたのに、目を伏せてどこか気分が悪そうだった。
涼香ちゃんが肩をすくめて居心地悪そうにぎゅっと手を握りしめている。
そして、彼の背後に立つ男が視界に入って、嫌な想像が浮かぶ。
見間違いじゃなければ、彼はさっき涼香ちゃんをナンパしてた――。
「薫ごめん」
「え、っておい! どうしたんだよ龍太郎!」
ギターを薫に手渡して、すぐステージを降りた。
舞台の際まで集まっている人達が驚いているのも気にならないくらいに、胸がざわついていた。
まっすぐ人混みをかき分けて涼香ちゃんの元に向かう。
「もう龍太郎どうしたの?」
秋良のすぐ横にいる涼香ちゃんの手を取る。
やっぱり近くで見ると顔が青ざめている。
目があってその瞳がどこか安堵するように見えた。
もう大丈夫と笑いかけて、そのまま手を引いて体育館をあとにした。
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