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第4話

「…ということで、国の予算成立後ですが、今回の件に国から補助を出そうと考えています。よって、予算の追加が必要なため、予算補正を行ないたいと思います」 本日の議会では、キッチンのワゴン劣化問題をコウが取り上げた。 今までは簡易的な修理をしてきたが、もうそれでは補えなくなってきているため、ワゴンの大規模修理をする。ついては、その修理費を国が負担するとコウは提案した。 その提案に「何故、修理費は国が負担する必要があるのか」「シェフやキッチンブースの経営者が負担すればいい」と言う意見が上がり、「何故だ!大切な国のお金を!」と、怒り気味になる人もいた。 今までこんな問題に、国が負担などしたことがない。突然、能無し王子が突拍子もないことを言い出したと、思ってるようだ。 初めての試みであるから怒り出すのもわかる。そりゃそう言うよなと、コウは受け止めていた。 しかし、よく考えて欲しい。ワゴンはキッチン全体で使用しているものであり、キッチン利用者の利便性のためのものである。だから修理費をシェフらに、個人負担として押し付けるべきではない。 ランチをキッチンで取るのは、この国の伝統でもあり国民を支えるもの、所謂文化として成り立っている。その中でワゴンは必要不可欠の物であることは、国民だったら理解しているはずだ。 だから、国民が利用するワゴンの劣化修理には、国から補助金を出し対応したい。そのためには、国の予算修正をしたいと続けて発言した。 《よし、もっと強気でいけ》 《えーっ、マジ?》 《大丈夫だから。すぐに可決させるには強気な姿勢が大切だ》 相変わらずテレパシーを使っている。 最近は使い慣れてきたから、実際人前で喋りながらも、マリカとは脳内でテレパシーを使い会話をすることが出来ている。めっちゃ器用になったと思う。 器用になったのはコウだけではなく、マリカも同じだった。コウが議会中でおじちゃん達にワゴン問題を説明してる間、脳内ではマリカによるテレパシーで、めちゃくちゃ煽られていた。 《言い切れ!》 《予算補正を行ないたいと思います。じゃなくて、行うって言い切れよ》 《お前が決定するんだ!》 《もっと強気!いいから言え!今だ!》と… ぎゃんぎゃんにマリカからのテレパシーは伝わってきて、頭が痛くなる… 「利益が出ないことに国の予算を使うのは反対です。そもそも、ワゴンは必要なのでしょうか」 国からお金を出すのに、利益にもならないとはありえん!という意見も飛び出してくる。更には、お金がかかるならワゴンいらなくね?廃止すれば?と、冷たくあしらわれてしまう。 「利益を生むことに、国の予算を使うことはありません。国からの補助金とは、基本的に返済不要な支援の制度です。お金を有効に使えばいいのです」 そもそも国からの補助金なんて、利益が絡むものではない。そう真っ向から向かい畳み掛けるようにコウは伝えた。 テレパシーでマリカに《いけ!言え!》《目を逸らすな》と言われてるし。 《よし、おっさん納得したか…そうだ。ま、それでいいだろう。よく言えたな》 《…おう》 やっとマリカが妥協点を出してくれて、ホッとする。とはいえまだこれで終わりではないから、気を引き締め直す。 「そうですね…コウ様の意見に私は賛成です。国は補助金に見返りは求めません。もし見返りを求めるというのであれば、それは政策目標の実現にです。コウ様は今回の提案の最終的な目標は何でしょうか」 国王の姉の夫が、鋭い視線を向けながら、コウに問いただす。彼はコウの提案に賛成派ではあるが、提案するには目標を持っているはずだ、理由を述べよ!と言い、難しい顔をしている。 《目標〜?》 《あるだろ!目標。昨日の夜、俺と話し合ったことを思い出せ!ほら》 またマリカが脳内テレパシーぎゃんぎゃんモード、ザ・リバイバルになってきてしまった。 「えー…っと…」と、コウは昨日の夜、マリカと2人で話し合った事を思い出す。 最近はコウの部屋で夜遅くまで2人で話し合いをしている。それを思い出せと言われている。 昼は全ての国民がキッチンを利用する。短いランチ時間を有効に使い、待ち時間なく食事を取りたいと国民はそう望んでいる。 今の問題はキッチンワゴンの劣化だ。昼のキッチンでは、劣化していないワゴンの取り合いが多くあるので、それがストレスになることもあるだろう。 全国民が楽しみにしているランチだ。 昼にキッチンでエネルギーをチャージし、午後からの仕事も気持ち良くスタートする。みーんなそう思っている。楽しみにしているランチに、ストレスなんていらない。 国民が望むことを、サポートすれば結果的に仕事の生産性を上げることにも繋がるよな?と…確か2人で話し合ったはず。 マリカとの話し合いを思い出し、しどろもどろになりながら、そう伝えた。だが、それだけで目標というものはない。質問された回答にはならない。 そんなコウの姿を見て、痺れを切らしたのかマリカが口を開いた。 「コウ様は国民のことをお考えになり、提案していることですが、別の角度からも必要であることがわかります。国の伝統、文化になっているキッチンを、見たい、試したいという国内外からの観光客が増えてきております。国の最大となる王宮のキッチンは、特に連日多くの人が来ている。これだけ多くの人が来ていると、ワゴン劣化により重大な事故やケガなどの被害が起きてしまうかもしれません。事故や被害を未然に防ぐためにも、大規模修理は必要だと考えます。何かあってからでは遅いですからね」 マリカは、はっきりと意思がある言い方をした。マリカの発言に皆注目している。 《グッジョブ!マリカ、言ってやれ!NOキッチンNOライフ!って言ってやれ!》 と、隣にいるコウはテレパシーを使い応援する。マリカが発言すると議会の空気がサァーッと変わった気がした。 「それに、コウ様は都市部のワゴン修理だけを国から補助すると言ってるわけではありません。このワゴン問題はどこの地域でも起きていると聞きます。まずは国で一番大きなキッチンを持つ、王宮キッチンからスタートさせ、ゆくゆくは全国のキッチン全て平等に対応したいと仰っております。都市部も地方も分け隔てなくです。よって全国民が、安心してストレスなく安定の暮らしを送れるようにする。それがコウ様の考える最終目標です」 更に追加されたマリカの力強い言葉に、国王の姉の夫も大きく頷き、理解を示しているようである。目標って聞かれたところの回答にもなっている。 《コウ!ボケっとしてないで、畳み掛けろ!お前が、NOキッチンNOライフ!って言ってやれよ》 《いや〜、NOキッチンNOライフは、さすがに言えないよ…この空気の中で。ふざけてるって思われるって》 《じゃあ、何で俺に言わせようとするんだ!ほら何でもいいから、押せ!あと一押しだ。お前が決めるんだろ?》 テレパシーでマリカに言われ、コウはハッとする。国王の代わりは今、コウである。マリカの後押しもあり、いい流れに乗っている。コウがはっきり伝えなくてはならない。 「えーっと、そう!そうです。最終的に国全体のことを考えています。国民の身近な問題を考え、スピーディーな対応をして最善を尽くすことに、国は力を入れて取り組むべきであると考えます」 マリカに促され、最後はコウも力強く伝えた。 伝わったのだろうか… 相変わらず難しい顔をしている人が多くいるようだ。だけど、パチパチと拍手する音も周りから聞こえてくる。議会に出席しているの人の中で、賛同してくれている人も少しはいるようだった。

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