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第5話

ワゴン修理予算については結局、すぐに可決することはなく持ち越しとなった。 マリカには議会中 《早くしろ!畳み掛けろ!決めろ!ほら!!》 と、テレパシーで急かされていたが、そんな急には決まらない。今日は終了し、次には決定するかどうかがわかる。 「だあーーーーっ…疲れた…」 「まぁ、よくやったな。ほら、食べろ」 午前中の議会を終え、待ちに待ったランチの時間であるが、ワゴン問題で疲れ過ぎてしまったコウは、キッチンでマリカ相手に張り切ることが出来ず、今日はマリカに料理を運んできてもらっていた。 今日のランチはDブース。 パエリアのフルコースにした。 今朝は「AブースのBBQ!食べ放題だ!」と、張り切っていたコウであるが、議会での立ち振る舞いに疲れ過ぎて、食べ放題は難しいとマリカに判断されてしまった。 それでもDブースのパエリアは最高である。タパスの盛り合わせ、サラダにアヒージョ、メインの肉料理にパエリアと盛りだくさんだ。 大好きなランチを前にすると気分も上がる。お腹が空いていたようで、あっという間にペロリと完食してしまった。 「よっ、コウ!久しぶり」と、知り合いのポーター仲間2人から声をかけられ、彼らが席に集まってきた。 ポーター達は、キッチンのワゴン劣化問題で、事前調査した時に協力してくれた奴らだ。その仲間達とマリカも既に顔見知りになっている。 「昨日はさ、おばあちゃんが破損してるワゴンに寄りかかって、そのまま倒れちゃったんだよ。ワゴンごとだぜ!」 「大きなケガはなかったけどさ、危ないんだよな。熱々の料理を乗せてたらって思うとゾッとするよ」 と、2人は口々にワゴン劣化の話を始める。確かに、いつかケガ人やひどい火傷を起こすなどが出てきそうではある。 「時間の問題だな。やっぱりすぐにでもどうにかしないと」と、コウが呟くと、「次の議会では可決させようぜ。そしたらすぐに行動に移せるだろ」と、頼もしい答えをマリカは出してくれた。 コウひとりではどうにも出来ないことが、マリカと一緒だと、すんなり出来そうな気がするから不思議だ。 「コウってさ、本当に王子だったんだな」 ポーター仲間のひとりが、そう言い、へへへと笑っている。 「なんだよっ!へへへっ…て。王子に見えないっていうんだろ?わかってるよ」 「いやいや!そんなこと言ってないぜ?今は王子として立派に仕事してんじゃん」 今まではキッチンポーターの仲間として一緒に働いていたけど、議会に出席したり、何かと国の政権を考えているコウを見て、やはり王子なんだと思ったと言う。 「でもさ、議会なんて毎日本当窮屈で大変だよ。早くキッチンポーターの仕事に戻りたいなぁ」 それを聞き「は?」「へ?」と、2人はポカンとした顔をコウに向ける。 「なんだよ…その反応」と、コウは怪訝な顔をして見返した。 「いやいやいやいや!コウ!お前はもう王子なんだよ!」 「はぁ?なんだそりゃ。俺はずーっと王子なんだってば。そう見えないかもしんないけどさ」 「違うよ、コウ。コウはもうキッチンポーターじゃなくて、王宮で働く王子なんだって。コウしか出来ないことしてるじゃん」 「そうだよ!ワゴン劣化の問題だって、コウが気がつかなければずっとこのままだよ?だから、コウはもう国民のことを、国民目線で考えていく仕事をするんだろ?」 ずっと一緒に仕事をしてきた仲間から、真剣な顔で言われてしまい、面食らう。 コウとしては、王である父が倒れたから代行としてやっていることだ。国の決まりで王子がやることになってるし、父が国王として帰ってくるまでやればいいやと思っている。 「…いや、俺はさ、」 何となく返す言葉に詰まった。ポーター仲間達の前で「そうだ」とも「違う」とも言えなかった。仲間の前では嘘をつくことも、誤魔化すこともしたくない。 国家政権とは、正直わからないことだらけである。マリカがいないと、何が何だかよくわからない。だけど、毎日嫌々でやってるかと聞かれるとそうでもない。 最近は毎日夜遅くまでマリカと雑談交えて、色々な話をしている。そこで聞いたことをコウなりに考え、マリカからアドバイスを多くもらい、意見を言ったり聞いたりしている。少しずつ国の問題を学んでいってるなと、感じていることも確かだ。 「俺たちだってずっとキッチンポーターじゃないぜ?最終的にはキッチンブースを仕切るメインシェフになるのが夢だもんな」 「そうだよ、修行中なんだぜ。だからコウのことも応援してるよ。将来の国王だろ?そのために今をやってるんだろ?」 また言葉に詰まっていると、同じ席にいるマリカが口を開く。 「こいつもそれなりに悩んでるんだ。慣れない議会なんかに出て頑張ってるんだぜ。悩んで、やりがいが見つかるまで、あとちょっとかもしれないしな」 「おいー!なんだよそれなりに悩むって!俺がアホみたいに言うな」 あはははと、その会話にみんなが笑う。マリカの言葉に場が明るくなったと感じる。 マリカは、ポーター仲間達から言われ、コウが言葉に詰まっているのをわかっていたくせに、議会の時のようにテレパシーを使い助けることはしなかった。 それはコウにとって嬉しいことである。 ポーター仲間達との会話は、議会のそれとは違うからだ。 コウはマリカと案外感覚が近いのかもしれない。ムカついてばかりだったが、最近はマリカといると楽しく、心地よいと感じることが増えていた。 みんなで話をしていたら、周りがざわつき始めているのに気がついた。 「ヤバい!Aブースで火災が起きたって!」 別のポーター仲間が、コウ達のテーブルまで自転車に乗り、すっ飛んで来て言った。 「Aブース?」と、そっちを見ると薄っすらと、白い煙がジワジワと広がり迫ってくるのが見えた。

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