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第7話
パチっと目が覚めたところは病院だった。
そっか、さっき火災が起きてシェフを担いでて…と天井を見つめながら、次々と自分の行動を思い出していると、ベットの脇に気配を感じた。
「起きたか…大丈夫か?」
「あれ?マリカ?」
「コウ、倒れたの覚えてるか?」
そうだった。あともう少しで煙の外に出られるってところで、意識が無くなってしまったんだっけ…と思いだした。
「ヤバっ。俺、煙吸っちゃった?それで意識無くしてた?」
「いや、違う…」
マリカ曰く、コウが意識をなくして倒れたのは、足を負傷したシェフに肩を貸していたからだという。
歩くたびにシェフが体重をコウに少しずつ預けていた。最後はほぼ全体重をかけていたようなので、その重さにコウの身体が耐えきれず、気を失ったようだという。
「はぁ?」
「はぁ?じゃねぇよ!行くなって言っただろ?俺、必死に探したんだぜ。倒れてた時は焦った…マジで。途中からテレパシー送っても答えないから余計に心配した。勝手なことするなよ!それから返事はしろ!」
「うっ、ごめ…ん。だけど、シェフの身体の重みで気を失うってことあるか?」
「必死で緊張状態だったろ?それにシェフもかなりの体型の持ち主だし、それをほぼ担いでるようなもんだ。それに疲労が溜まっているのも原因だったようだ。だから気を失ったんだろうと先生が言ってた」
僕はひ弱です…と言っているようなもんである。人を助けておいて、気を失うなんて恥ずかしい。
「煙は吸っていなかったようだ。タオルも口に巻いてたし、先生も診察して大丈夫だと言っていた。だが、念のため聞くが頭痛ないか?めまいは?吐き気は?」
「いや…なんもない。今はスッキリしてる。それよりシェフは?大丈夫?」
「ああ、無事だよ。シェフは火災が起きたのがわかって、ヤバいって思って走ったようで。その反動でアキレス腱を切って動けなくなったそうだ。助けてくれたコウにお礼を言いたいって言ってたぞ」
「シェフ無事!あ〜、よかった。あとは?ケガ人いない?火事は?あの後、火は消えたの?大丈夫だった?」
そこも心配である。火事なんて今まで起きたことがなかった。キッチンブースはそれぞれが広いが、管理はしっかりしていたはず。衛生面も含めて今まで問題になることはなかったから、火災と聞きコウは慌ててしまったんだ。
「大丈夫。ケガ人はひとりもいないし、火もすぐに消えた。思ったより被害は少ないみたいだから、時間がかからないで営業再開は出来るみたいだ」
Aブースは、営業再開まで時間がかかると思ったが、マリカの言葉を聞きコウは安心した。
「だけどな!お前の行動に、俺は納得していない。思い立って急に行動するのはやめろ。いいか、今、お前は国王の代わりに政を動かしている大事な人材なんだ。お前がどうにかなったら、お前ひとりの問題じゃない。王に続いてお前も病院なんて冗談じゃないぞ。軽はずみなことをするな」
「わかりました…」
マリカの言う通りだ。国王不在で大変な時に、自分の立場をよく考えないで行動するなんて、本当によくない。
考えも行動も軽はずみなことはせず、自覚を持つことを意識しなくてはならない。
「それで…気分はどうだ?もう大丈夫か?」
「あ…うん。大丈夫だよ」
マリカから問われて素直に答える。最近の疲れもあったのか、気を失ったとはいえ、寝たらスッキリとしているのは本当だ。
「じゃあ、帰るか。先生は目が覚めたら帰っていいと言っていた。病院より王宮の方がゆっくり出来るだろ」
それもそうだ。自室に戻って今日はゆっくりしよう。そう思いコウは頷き、ベッドから起き上がった。
「えっ、えっ、なっ、なんだよっ!おい」
ベッドから起き上がった途端、マリカに横抱きにされる。コウを抱き上げたまま、マリカは病室を出ようとしている。
「ちょ、ちょっと!マリカ!おい!」
「少し黙れよ。俺はまだ怒っている。お前が軽はずみなことをしないように、こうやって王宮へ連れて帰るからな。それに今日から俺は、お前の隣の部屋で寝起きする。勝手な行動はするなよ」
「えーーっ、このまま?マジ?やだよ、恥ずかしいじゃん。みんなに見られるし。ひとりで歩けるからさ、」
マリカに抱き上げられているこの格好は、所謂お姫様抱っこというやつである。
成人男性が、成人男性にお姫様抱っこをされている姿なんて、罰ゲームのようだ。恥ずかしくて、恥ずかしい以外の言葉は見つからないっ!
「恥ずかしかったら顔を伏せていろ。目をつぶっててもいい。すぐお前の部屋まで連れて行くから、ちょっとの間我慢しろよ?ジタバタするなよ?」
マリカは譲らないようである。病室を出てコウを抱き上げながら、スイスイと歩いていく。コウは恥ずかしさから、顔を上げず、マリカの足元だけを見ていた。
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