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第8話

「だあぁぁぉぉぉーーーっ!いいってばあぁぁーーー!もおぉぉぉぉ!!」 ピチュピチュと美しい鳥の声を聞き、朝の静けさと清々しい空気の中、皆で朝食を囲んでいる所に、コウの叫び声が響く。 「び…びっ…びええぇぇ〜んんっ」と、そのコウの突然の叫び声に、第二王子のウルキが泣き出してしまった。 ウルキはご機嫌にキャッキャと笑い、乳母たちから朝食を食べさせてもらっていたのに、悪いことをしてしまった。 「あ〜、ごめんごめん!ウルキごめんなぁ、びっくりしたよな?」 「そうだぞ、お前が突然叫び出すから。何をそんなに叫ぶんだ」 「なっ…なにって、お前がっ!テレパシーでずっとうるさいからじゃん」 朝食の間、ずーっとである… 《これ食べるか?何飲むか?フルーツはどうだ?ドラゴンフルーツがあるぞ。ジュースにしてもらうか?食欲はある?ない?何故黙っている。そうだ、一番気になることだ、今日の調子はどうだ?大丈夫か?アレルギーはないか?何か気になることは、》 マリカのテレパシーは朝から炸裂していた。最後の方は、病院の問診っ!お前は医者かっ!ってほどのことも聞かれている。 先週、キッチンで起きた火災以来、マリカの遠慮ない護衛が始まっていた。元々マリカの仕事は国王の側近かつ護衛である。 なので本人マリカは今、コウを護衛しているという。しているつもりらしいが、日に日に護衛というものから遠ざかっていっている気がしてならない。 護衛というより、今は過保護である。 王子であるコウは、小さな頃から周りに過保護に扱われていた。なので、過保護には耐久性が高い!そんなもんは慣れている。 だが、マリカのそれはまたちょっと違う、慣れていない類のものだ。 小っ恥ずかしくて、赤面してしまいそうになる部類の過保護をされる時がある。優雅な朝食中に「のああああーー!うるっさい!」と、叫び出してしまうほどだ。 あの日以降、マリカは王宮内のコウの部屋の隣に越してきた。コウが倒れた後なので、何らかの後遺症が出るかもしれないからという理由からである。 それからずっと、ほぼ24時間マリカと一緒に行動することになった。 コウとマリカの関係は変わらない。相変わらずテレパシーを使い、議会ではマリカから《ああ言え!こう言え!強気で言え!》と、ぎゃんぎゃん指示を出され、鍛えられている。 だけど、マリカの行動が変わってきていた。火事の中、キッチンでコウが自分勝手な行動を取り、挙げ句の果てにその場で倒れてしまった。それを見た時から、マリカは変わっていった気がする。 マリカは事あるごとに、コウを抱え上げようとする。こっっぱずかしいことをする! 「ひとりで歩けるから!」と、言っても「また勝手な行動をされたら、たまらん!」と言い返されお姫様抱っこをされてしまう。 コウが抵抗しても、抵抗しきれない。何とか「外ではやめてくれ」というコウの必死な訴えは聞いてくれたが、王宮の中だけはお姫様抱っこ、至れり尽くせりを許せという条件をつけてきた。 朝は「体調はどうだ、問題ないか、よく眠れたか」と起こされ、ベッドからダイニングまではもちろんお姫様抱っこで連れて行かれる。朝食では「これ食べろ、それ飲むか」と世話を焼き、仕事中は「寒くないか、暑くないか、疲れてないか」と気をつかう。夜までずっとそんな調子が続き、寝る時はベッドまでまたお姫様抱っこで連れて行かれる。何度と「俺は姫じゃなくて王子だ!」と、叫んだことか… 口ではいつもと変わらず言い合いをする仲であるが、マリカの行動が、態度が、何とも赤面するレベルの過保護に変わっていった。 「だーかーらー、飲み物だって、食べ物だってこれで満足してんの!マリカに取ってもらわなくても自分で出来るから大丈夫だってば。それに、何でそんなにテレパシー使って言うんだって」 「お前が、食べてる時は喋るなって言うからだろ?今まではお前の方がペラペラ喋りながら食べてたくせに」 「それはっ、会話だろ!」 「俺の話だって会話だろ。朝食は大切だ。おかわりはいるのか?パンはどうだ?ベーコンもあるぞ?ミルクやフレッシュジュースはどうだ?って聞いたっていいじゃないか。それを聞くと、喋るなってお前が言うからテレパシー使ってるんだろ」 「だーかーらー…ううぅぅ〜」 何を言っても言い返されるから、ここで終わりにしてしまう。何故かあれ以来マリカはずっとこんな調子である。 「コウ、マリカに気に入られたら仕方ないのよ。あなたの行動パターンが完全に読めないうちは、マリカは過保護になるわ」 そう言いながら、アンジュがコウにジュースを注いでくれた。今日のオレンジジュースは一段と美味しく感じる。 アンジュはマリカの母方の祖母である。アンジュ曰く、マリカは小さな頃から愛情表現が行き過ぎてしまうことがあるらしい。気になったことには夢中になり、気になったらトコトン構い倒して、過保護になってしまうという。 「昔、一緒にいた犬には本当に過保護になって大変だったのよ。寝る時もずっとマリカは一緒だったわ」 「犬…」 「そう!可愛い子犬よ」 自分がマリカのそんな対象になったのだろうか。どんなタイミングで、何をキッカケだかわからないが、身内が言う程の過保護っぷりなのだから本当にそうなんだろう。 まぁちょっとめんどくさいけど、マリカの新しい面が見れるのも面白く、別に王宮の中だけなら好きにさせてやるか、犬の代わりだと思えば別に恥ずかしくないか…と、コウもそんな気持ちになっていた。 「あなた達のテレパシーも安定してきてるみたいね。本当によかったわ」 「…まあな。やり方も上手くなってきたし、分かり合えてきたよ」 コウの代わりにマリカが答える。 コウとマリカがテレパシーの相手であるというのは、アンジュにしか伝えてなかった。テレパシーとは非常に繊細なものだと聞いていたからだ。 テレパシーの持ち主が「この人とテレパシーで繋がってます!」と、オープンにしてしまうと、周りの人が勘繰ってしまうことが多くあるという。 テレパシーを使っていない時でも、通じ合う2人の間に挟まれた人達は、一緒にいるだけで「もしかしたらテレパシーで別の会話をしているのかもしれない」「まさか悪口言われてる?」なーんて、勘繰ってしまうらしい。 それはテレパシーあるあるなんだとか。 アンジュもテレパシーの持ち主である。テレパシーとはそういう問題もあると、アンジュが教えてくれていた。 周りの人達と上手く付き合うためには、テレパシーの相手をオープンにしない方がいいようだ。だから、コウとマリカもアンジュにだけ伝え、その他大勢には教えていない。 「コウ、もう食事は充分か?フルーツもいらないか?」 「うん、もう大丈夫。じゃあ、議会に行くか。ちょっと憂鬱なんだよなぁ。ウルキ〜おいで〜、抱っこしてあげるよ〜」 これから議会に出席する。この前のワゴン問題は本日解決する予定だ。どうなるかわからないから、ちょっと憂鬱だけど。 ウルキがトトタッと歩き、コウに近づいてきた。歩けるようになってからは更に楽しそうである。食事も大人と同じものをたくさん食べれるようにもなってきていた。言葉も色々喋れるようになっているし、ぐんぐんと成長を感じて嬉しい。 「まんま」「だっだ!」と言いニコニコしているウルキが可愛くてたまらない。コウはウルキを抱き上げて、ぎゅうぎゅうと頬ずりをした。 「うぅ〜ウルキ〜!かっわいいなぁお前。一緒に行く?議会に行っちゃう?あ〜、ウルキともっと一緒に遊びたいよ」 ウルキはコウに抱っこされながら、キャッキャと声を上げて笑っている。朝食を終えて満足しているようだ。ご機嫌なウルキからは甘い匂いがする。 「今度の休みにどこか行くか?車でウルキと一緒にドライブでもするか?」 「マジっ?する!するっ!やったぁ〜!ウルキ、ドライブだって。マリカおじちゃんが連れてってくれるってよ」 「おじちゃんじゃねぇし…」 キャッキャと笑い、足をバタバタさせて喜んでいるウルキを、乳母に預ける。「じゃあね〜」とウルキの頬にキスをし、ダイニングを出ようとすると、コウはマリカに抱き上げられてしまった。 「おい!俺はウルキじゃないぞっ!」 「同じようなもんだろ」 と、マリカは口では意地悪なことを言うけど、抱き上げる時はいつもふわっと優しくコウを包み込んでることを知ってる。

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